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【詩集】空蝉が空に飛んだから

蝉の抜殻。
夏の青空に、とんだ。飛んだ。
セミじゃなくて
蝉の抜け殻が、
まっさらに飛んでった。

それは、
ずる剥けて消化された、
悲しみかもしれない。
使い古された、
消耗品的虚しさかもしれない。

――誰かに託した夢の殻かもしれない。

とにもかくも、空蝉が飛んだから。
置き去りにされたものたちの声が
聞こえはじめる。

ソーダ味

涙が全てソーダ味なら
それは決して塩辛くはないのだ
炭酸のパチリと痛いが
それはやがて甘くなるのだ

カラコロロ カラ
コロロ カラ
氷がしゅわしゅわ泡立てて
炭酸の甘さ甘さ
優しさ
涙が滲んで沈んでいく

冷たい冷たい氷 こおり
そのソーダ、飲んでしまえ

2021.06.28

空の青さを知る人

空の青さを知る人よ
どうか そのまま変わらぬように
カモメすらも飛び立たず
雲も決して晴れぬまま
太陽の光と空の青さを
知ったままで いてくれよ
私にはわからぬ
爽快な
胸を抱いて 出立て青年よ
頭を寄せて 出立て青年よ

空の青さを知る人よ
どうか……
どうか……
何も変わらぬままで
ソーダを飲み干しておいてくれ
それが 私たちには出来ぬ

2022.02.07

ひと夏の寂しさよ

夏の終わりには
海の波も引き
乾いた砂浜だけが夜空を見上げてる

海の底に 深く 深く 沈む貝殻は
かつて砂浜で見上げた太陽を探してる

夏の終わりには
海の水も冷え
身を焦がした温かさをどこかで求めてる

夏の終わりの寂しさよ
海と共に消え去れば
乾いた風が息吹を届け
やがて夏を忘れた頃に凩が泣き始める

夏の終わりの寂しさは紅を待っている

2022.11.07

空を仰いで泣く僕ら

泣いてくれ空に
めいいっぱいの涙を
強気で穿った道なんて壊れやすいからさ
涙で濡らして固めた道路の方が進みやすいからさ
笑ってくれ風に
急ぎ足な彼に
にんげんの瞳はそれほど多くのものを映せないからさ
エンドロールに後ろ髪引かれるのは多くのシャッターを切りたいからさ

どうか泣いてくれ空に
あなたらしくの泣き顔で
隣人の泣き虫同士にしかそれは見られることがないからさ

2022.12.24

わからない滄い空と、私と、

私に空はわかりません
わからないから行きたいのです
あの炭酸のように澄んだ滄い遥へ
空はきっと青、でも、蒼、でも、碧でもない
なぜなら大空には大海が聳えてクジラが飛ぶ
滄い海です クジラが跨ぐ滄い海です
そこへ私は旅立って大海原を泳いでみたい

でも、空には私より先に泳ぎに行って
溺れたいくつもの心がある
私はその心を掬い、大地へひとつひとつを送りたい

大地を踏んで色々をしたかった 今はなき子どもたち
朽ち果てた私めを空へ泳がせて 彼らをこの地へ帰してください
空もわからないくせに空へ行きたがり、
大地で歩くことを拒みたい私に
滄い海でクジラに踏まれる罰を与えてください

2024.04.27

今年の夏を思い出すうた

葉を蒸して長々と聳え立つ陽炎を見、
見て、
この意識は入道雲まで運ばれていくのだと。
私は、私という人間は、
あの勇ましい雲まで運ばれて
今年の夏を感ずる。

空の青々としたソーダ味も
それを鼻に掠める夏の熱風も
旬を過ゆく紫陽花の塩っぱさも
分からなくなってしまった無の五感が、
入道雲によって、やっとこさ、
夏の風味を思い出した。

鬱々とした夜に隠れていた私という人間は、
葉を蒸す陽炎に連れられて
入道雲に魅せられて
やっと夏を感じました。

2024.06.05

アリスブルーと夏の空

いい天気というのは
日輪がさんさんとした金色の空
ではないでしょう
海に染まって深くなった群青色の空
でもないでしょう

良いお天気というのは
太陽が白くぼやけて輝き
雲が薄ら空を抱きしめるように覆った
アリスブルーの大空だと思うんです

私は枕にあけて横たわり
弱々しい右手を上にかざしながら
アリスの優しいあおを見るのが
好きなんです

2024.07.08

風鈴と、こどもとソーダと

その風鈴は、誰が鳴らしているのか
硝子が跳ねる音
風が背中を押してそよぐ音

ソーダを右手にはしゃぎまわる
こどもたち
が廊下を突っ切って
硝子が跳ねる音

風が背中を押してそよぐ音
木の板踏んで、竹は揺れ、緑の中から
海の青 空の青
こどもの一人が転んでソーダは弾けた
硝子も弾けてチリチリ鳴った
何度も鳴った

その風鈴は、誰が鳴らしているのか
夏の青さは…… こどもたちの……

2024.07.29



空蝉が、飛んだ、音。
きこえた?
置き去りになった、夏の悲しみ。
きこえた?


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