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8月21日 パーフェクトの日

    ある日の夕食時のことだった。テレビでプロボーラーがパーフェクトゲームを達成した時の映像を見た。我が子が4歳の時である。

「ボウリングに行きたい!」

    テレビを見ながら娘が大興奮で立ち上がったのだ。

「そうかそうか、じゃあ今度みんなで行こう!」

    夫はそう言って頭を撫でて見せたが、彼女が行きたいと言ってから未だ行けていない。2人目の出産があり、その後の世界的な感染症問題の拡大、それによる外出自粛が続き、行ける理由より行けない理由の方が多くなっているのだ。

    そうして彼女は今日、7歳になる。

「ボウリングに行きたい!」

    確か先月も昨年も言われたっけなぁと思いながら、私はやはりごめんねと言うしかないのである。

    娘ももう慣れっこになったのか、1度言うとすぐに引く。本当にごめんね。

「予約しているものを取りに行ってくるからさ、ちょっとそこの......あ、フリマやってるよ。見てて」

    私はそう言ってスーパーの向かいにある、ケーキ屋さんに向かう。今日の誕生日ケーキである。プレゼントには彼女が欲しいと言っていたスロー再生やコマ送りなどの編集機能付きのカメラを用意してある。小学1年生にもなるとキャラクターものではないのだなぁと妙に感心した。

    だからこそ、大人と一緒に出来るボウリングを経験させてあげたいとつくづく思う。

「お待たせ」

「遅いよ!」

    私が彼女の元に向かうと慌てた様子でこちらに駆けてきた。

「ママ、200円貸してください!お財布持ってきていないの。あとでちゃんと返すから!」

「ええ!何で?何を買うの?言ってくれればママがちゃんと買ってあげるから」

    言いつつ私は財布を出すが、彼女はその時間さえ惜しいらしい。

「お願い!ちゃんと返すから!」

    その勢いに圧倒され、私は言われた金額を渡した。すると彼女は急いでフリマに戻り、狙いの出店でそれを購入したようだ。

    その顔が何だかとても無邪気な笑顔に見えて何を買ったのかと気になってしまった。

「おかえり、何を買っ......」

「ママ!見てみて!ボウリングセット!」

    じゃーん!と言う効果音が聞こえそうなほど、キラキラと満面の笑みの娘が戻ってきた。その手には確かにボウリングセット一式がある。

    但し、ピンの高さが20cmほど、ボールは直径10cmほどと言ったところか。おもちゃボウリングである。

    でも彼女は嬉しそうなのだった。

「あーすっごく嬉しい!もう夢が叶ったよー」

「ええ!本物のボウリングにまだ行ってないのにー。夢はこれからだねぇ」

    出口に向かいながらそんなことを言い、私は冗談を言ってみた。

「あ!じゃあこのボウリングセットを誕生日にして、カメラはまたにしようか!」

    あくまで冗談であるが、彼女はまるで本気にしたように真顔で答えた。

「カメラも必要なんだよ!このセットでボウリングの練習して、カメラでフォームを撮ってスロー再生して練習するんだもん」

    あ、そのためのカメラなのね。私がぽかんと見ていると、彼女は何かを見つけたように表情を作って言った。

「目指すはパーフェクトゲームなのよ」

    ならばならば、貸してと言われた200円はもちろん投資させて頂きます。

    夢は壮大に!

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【今日の記念日】

8月21日 パーフェクトの日

1970年(昭和45年)の8月21日、プロボウラーの中山律子選手が東京の府中スターレーンで開催されたプロ月例会の優勝決定戦で、女子プロボウラー初のパーフェクトゲームを達成したことから、中山選手のマネジメントを手がける株式会社マザーランドが制定。そのゲームはテレビで放映され、その後の日本のボウリングブームに大きく貢献した。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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