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やわらかな水

カタ、カタ、カタ、タタタタ・・・・

とケトルが鳴る。
そのまま弱火で5分沸騰させ、耐熱ガラスのボトルに注ぐ。

お湯を落としていると気持ちが落ち着いてゆく。ボトルが湯気で曇ってゆくのを眺めていると、心までフワ~っと軽くなるようで心地よい。



料理をほとんどしない私が、いちばん多くする家事はお湯を沸かすこと。家事といえるか不明だが。ちなみに料理は夫の担当である。

その夫は毎日2リットルの水を飲む。そのほかにコーヒーや焙じ茶、ハーブティーなど、とにかく2人とも水やお茶をたくさん飲むので、ガラスボトルが空くとお湯を沸かすのが私の役目。沸騰したらきっかり5分弱火煮沸し冷めたら冷蔵庫へ、を日に何度も繰り返す。



ペットボトルの水を買わなくなって1年になった。
節約のためでもエコのためでもなく、ミネラルウォーターを買い忘れ仕方なく水道水を沸かして飲んだことがきっかけ。それが意外と美味しかったらしい。

「水は自分が育った地域に近い水源のものがいい」と、産地にこだわって取り寄せていた夫が、これからは水道水でいいと言う。そんな夫を訝しく思いつつ、水道水を沸かすのが日課になった。



そんな折、テレビで「水とカラダの特集」を見た。
美容や健康の効果は言わずもがなだけど、水道水に関するくだりが興味深い。

たとえば、こんな内容。

・水道水が飲めるのは世界でも12か国しかなく、わざわざペットボトルの水を飲まずとも日本の水道水は美味しい。

・水道水の塩素は一晩おいておくだけで揮発するが、5分煮沸し冷まして冷蔵庫へ入れると炭酸が溶け出して美味しくなる。

・ガソリンが値上がりすると騒ぐけど、実は水のほうがよっぽど高い。


それまで、なんとなく「煮沸して水を作っています」と言えずにいたが、“これでいい”と太鼓判を押されたような気持ち。些細なことでも肯定感を持つのはとても大切なこと。


それにしても、いつから水を買うことがあたり前になったのだろう?

安心して水道水が飲めるなんてありがたいことではないか。水を買わなくなったことで、配達ドライバーさんへの申し訳なさも軽減された。



そういうわけで、キッチンにガラスボトルが並ぶのがあたり前の景色になった。

熱湯はゆっくり熱を放ち静かに水へと戻ってゆく。こうして作った水はやわらかい。それをゴクゴクと美味しそうに飲む夫を眺め、小さな幸福感に包まれる。

だから私は水を作る。
今日も明日もあさっても、10年後も、きっと20年後も。




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