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海の駅

終点、海の駅。
もう辺りは薄暗かった。駅から海に向かって歩く。歩道橋を渡ったら、もうすぐだ。道路の蛍光灯の光からかろうじて、海の家らしきもの、自動販売機、脱衣所、シャワールームが見えた。白い砂浜の向こうに星が見え始め、月が顔を出していた。
目的があったわけじゃない。ただ、来てみたかった。ここには一体何があるのだろうか。座って、海を眺めることにした。生ぬるい海風を感じて、そっと目を閉じた。ザァザァーっと波の音が聞こえる。



足元に向日葵

砂浜に青を添えて

水中にはどんな世界が待ってる?

水溜りを駆け抜ける。

深淵に落ちていく。

魚は遠くの海まで泳いでいける。雲は遠くの空まで流れていける。人間は遠くの地まで歩いていける。はず。

水平線に見えるのは、私が知りたい答えかしら。

麦わら帽子を見るたびに、思い出すのはあの子の笑顔。

いつでも泣いていいなら泣ける。泣かないようにしてるだけ。

涙は我慢する、そうすると心が遠くなる、私が離れていく。…私いなくてもいいじゃない。

漂う光(わたし)を見つけてね。

ゆらゆらとさらさらと、忘れられても待っている。


誰かが忘れたマフラーが、風になびいて飛ばされていく。

僕たちはまだ知らない。消えていく想いもあるってことを。

待ち続けたセーラー服の少女は、ヒールを履いてルージュをつけて、違う場所へと飛び立った。


ふと、思い出す。本当は1人じゃなくて2人で海にきたかったんだと。あの頃の私たちは、学生でお金がなかったから、大人になったら2人で来ようと約束していた。
そんな過去もあったなと自嘲気味に笑う。
海はひとりぼっちに優しくない。ただ、目の前にいるだけ。でも、不思議と励まされている気がした。

ザァザァーン、ザァザァーン。
おやすみなさい。

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