見出し画像

夏休みの自由研究2024 (1) ~距離減衰1/r則は本当か?~

「夏休みの自由研究」企画ということで、土日に行った実験の結果をNote記事に投稿することを7月、8月に実施することとした。2024年度は「音響の教科書に載っている当たり前のことを検証してみた!」系の内容を扱うことにした。

音はスピーカーから放射された後、スピーカーから離れるほどその大きさが小さくなる。スピーカーからの距離と音の大きさの関係について、音響工学の本には「自由空間に(理想的な)点音源が1つ置かれている場合、音圧の大きさは距離に反比例する」こと(1/r減衰則)が記されている。本記事では、「夏休みの自由研究」企画の第1弾として、この1/r減衰則を確認する実験の結果をNote記事にまとめた。


1. 実験環境、データ取得時の各種設定

図1:実験環境

自宅(1Kマンション)の通路に、図1に示すように、Amazonで購入可能なスピーカー、騒音計、ボイスレコーダーを設置して実験を行った。スピーカーAT-SP95からホワイトノイズとピンクノイズを再生し、騒音計で音の大きさを測定し、ボイスレコーダーで騒音計に到達した音を録音した。

機材設置の都合、スピーカーとマイクの距離が小さい場合は、騒音計の後ろで作業(音の再生時、終了時のPC操作)をしたが、スピーカーとマイクの距離が大きい場合は、スピーカーと騒音計の間に座って作業をした。スピーカー、騒音計の高さは1m以上あり、かつ通路の端に座って作業をしたため、スピーカーから騒音計への直接波の伝播経路を遮っていないと考えている。

スピーカーと騒音計の距離を調整した後に、スピーカーからホワイトノイズとピンクノイズをそれぞれ30秒間再生することを繰り返して行うことでデータを取得した。ホワイトノイズとピンクノイズの再生回数は各距離に対して基本的に1回とした。時間を要する点と、マンションでの騒音対策の観点で複数回実施していない。救急車のサイレンなど大きな音が聞こえた場合のみやり直しをするつもりであったが、幸いなことに、データ取得中にそのような音は聞こえなかった。

騒音計、ボイスレコーダーの詳細な設定は以下の通りである。

  • 騒音計はFast、A特性に設定。

  • 騒音計の記録は「1秒に1回の記録」で設定(騒音計対応のソフトを使用)

  • ボイスレコーダーの感度:7段階で設定できるうちの一番小さなものに設定。

  • ボイスレコーダーのノイズキャンセリング機能:OFF

  • ボイスレコーダーのサンプリング周波数:48kHz

2. 実験結果 (1) ~騒音計の音圧レベル~

全データ取得後に計測データを確認したところ、ピンクノイズ再生時のデータが騒音計データが安定していた(ホワイトノイズ再生時の騒音計データは不連続に変化している場合があった)ため、今回はピンクノイズのデータを用いて、スピーカーと騒音計の距離と音圧レベルの関係をまとめた。

図2:再生したピンクノイズの周波数特性

ピンクノイズはAdobe Auditionの機能を利用して作成した。図2に実験で使用したピンクノイズの周波数特性を示す。ピンクノイズは高周波数帯ほどパワーが小さい特性を有するノイズ音の一種である。

図3:計測結果(ピンクノイズの音圧レベルの距離減衰特性)

図3に計測結果と計測データをもとに作成したフィッティング曲線を示す。図3の黒線+黄色マーカーで示したように、音源から離れるほど音圧レベルが減少した。特に、音源から50cm以内では、音源から離れたときの音圧レベルの減少の程度が大きいことが確認された。この傾向は1/r特性と類似するものである。図3の青線と赤線は、スピーカーと騒音計の距離をx (cm)、音圧レベルをP (dB(A))として、

$$
P = p_0 + p_1 \log_{10} x
$$

という曲線でフィッティングしたものである。青線は全ての計測データを利用して曲線フィッティングを実行した結果で、

$$
P = 103.26 - 17.46 \times \log_{10} x
$$

という曲線である。一方で赤線はスピーカーと騒音計の距離が60cm以上のデータだけを利用して曲線フィッティングを実行した結果を表すもので、

$$
P = 87.82 - 10.12\times \log_{10} x
$$

という曲線である。

点音源の減衰特性は、音源からの距離をrとすると、適当な定数を利用して$${P = p_0 - 20 \times \log_{10} r}$$という式で表される。全データを使用したフィッティング曲線の$${\log_{10} \sim}$$の前にかかっている係数は$${-17.46}$$と$${-20}$$より小さい。そのため、実験結果だけで判断すると1/r則は誤りと結論付けることが妥当である。ただ、1/r則は自由空間での音放射に関する物理法則であるが、実験環境は自由空間ではなく、壁面で反射した複数の音波と直接伝播の音波の干渉が発生することを考えると、今回の実験結果を1/r則に近い結果が得られたと判断するのが妥当と考える。壁面反射の影響は騒音計のレベルだけではわからない。ボイスレコーダーの録音データから直接波と反射波の影響が反映されているインパルス応答を算出し、どの経路の音波の影響が大きいか確認したい。(インパルス応答の確認結果は後日本記事の第3章として公開する。)

※ 一先ず書きかけの現段階で記事を公開する。今後、加筆・修正を繰り返し完成させていく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?