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『デザインの伝え方』読書会レポ[ANKR DESIGN Book Club]


こんにちは。ANKR DESIGN インターンの幅田です。

今回取り上げるのは、O’REILLY Japanから発行されているTom Greever氏の著書『デザインの伝え方』です。さまざまな業界や立場のクライアントとの案件を行なっている弊社では、デザインプロセス中でのステークホルダーとのコミュニケーションを重要な要素として位置付けています。この時、自身がBook Clubに新たなメンバーとして加入したということもあり、改めてその要素について皆で理解を深めようということになりました。このような経緯から、デザインの中でもコミュニケーションに特に焦点を当てている本書を取りあげました。

近年、デザイン思考やデザインプロセスに関連する本の数は爆発的に増えましたが、一方でどの本を読むか迷ってしまう人もいるのではないかと思います。そこで、この記事ではまず「本書の概要と対象読者」「この本の特徴」について簡単に触れたいと思います。その上で、実際の読書会で「印象的だったディスカッションの内容」について私なりの視点から考えてみたいと思います。


概要・対象読者

本書はデザインの中でも、コミュニケーションに特に焦点を当てて書かれています。ここに注目する理由として、導入部分で具体的なエピソードに触れながら以下のように書かれています。

誰の目から見ても明白でした ー あのCEOの承認が得られなければ、我々のプロジェクトが日の目を見ずに終わってしまう、ということが。デザインを理解してもらうためのコミュニケーションのほうが、デザインそのものよりも重要だったのです。(まえがき vi)

企業等の組織で行われている多くのプロジェクトでは立場の異なるステークホルダーがさまざまな関心や動機を持ち、関わっています。Tom Greever氏に言わせれば、彼らに対して適切な方法で決定事項を共有したり、合意形成ができないなら、成果物がどれだけ自分(たち)の納得いくものだったとしても意味がないというのです。

このような問題意識から、プロジェクトの最中でデザイナー以外の人へとるコミュニケーションの方法ついて、明日にでも取り入れられるくらい実践的に書かれているのが本書の特徴です。具体的には、以下に示す全体構成で、主に「何かを書き留めておく手法」「質問のコツ」「相手が真に求めることを聞き出すための工夫」「複数のデザインを同時進行するコツ」といった事柄について詳しく解説してあります。

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▲本書の構成(書籍内の図をベースに筆者が再制作)

個人的には11章の「難局を打破する方法」で、デザインプロセスを理想的に取ったにもかかわらず難局が発生した際、そこからうまく脱する方法が書かれているのが印象的でした。ここでは例えば、ステークホルダーからの好ましくない変更要求に無理なく応じる方法、悪意ではなく意図を持ってステークホルダーの目を逸らす要素を忍ばせるコツなどが書かれています。

理想論を語るだけではなく、現実で発生する問題にどう対応していくのかといった観点から、語っている書籍はそれほど多くないのではないでしょうか。

本書では、対象読者としてデザイナーはもちろんですが、エンジニアやPMなどの組織で合意形成を行いながらプロジェクトを進める必要のある人も挙げられています。また、役員や部課長といった、チームの成果に関心がある人、現場とのコミュニケーションが必要な人にとっても、プロジェクトがどういった観点に基づいて進められるべきなのかを理解することができるようになっていると述べています。

デザイナーでなくとも「組織やチームにおいて他者との対話を繰り返しながらなんらかの成果を挙げる」ことに関わる全ての人にとって、より良いコミュニケーションを考えるきっかけを与えてくれる本と言えるのではないでしょうか。

ただ、実際に読んでみると著者が日本で実践している人ではないので、文化的に受け入れられない要素や違和感のある部分もないわけではありません。しかし、それは自分の納得のいく部分や低コストで取り入れられる部分のように、可能な範囲から試していけばあまり問題ではないように感じました。


この本の特徴

上記で述べた概要を踏まえた上で、本書の内容にもう少し踏み込んでみたいと思います。本書を他のデザイン思考やデザインプロセスに関して書かれた本と比較したとき、見えてくる特徴について2点紹介したいと思います。

■ユーザーとクライアントを同程度に重要な存在として扱っている
デザイン思考に関連した書籍では、「ユーザー中心」や「人間中心」と言った言葉を用いながら人々が主に抱える問題を特定・解決する方法について解説してあることが一般的です。そのため、「作り手の観点」という要素に触れている場合もありますが、やはり解説の力点はユーザーの側にあるものが大半でした。そのため、デザイン思考が人々の間で伝播していく際も、ユーザーとどうやって向き合うのか?のような「ユーザーに対する視点」だけが極端に強調され、そのほかの観点が削ぎ落とされて広まった傾向は否めないでしょう。
本書では、ユーザーに注目することももちろん重要だという前提に立った上で、クライアントが「どのような視点を持ちプロジェクトと関わっているのかを理解すること」「彼らの立場や考えに共感すること」を中心テーマにすえて言及しています。これは、デザイン思考における「作り手の観点」という要素を「ユーザーに対する視点」と同等に引き上げ、人々へと広める可能性を持っているのではないでしょうか。

■デザインに対する価値観の変化に多く触れている
数十年前までは、デザインの対象はグラフィックやインダストリアル(服飾、建築、工業製品など)といった領域が中心であり、トップクリエイターとも呼べるような人が個人で実践を行うのがデザインだという認識が強くありました。そこから1990年代以降、インタラクションやサービス、システム(≒仕組み)のような、より抽象的な領域にまでデザインの対象が広がり始めたことで、取り扱う課題が複雑なものとなっていきます。

この変化は、社会全体にとってのデザイナーの認識を「見た目を整える存在」から「人々を理解して根底にある課題を特定しそれを解決に導く存在」に変えることになります。そして同時に、人々を理解して根底にある課題を特定するために、さまざまなステークホルダーをデザインプロセスの中に適切に巻き込んでいくことが重要視されるようになりました。

つまりは「デザインはみんなで行うものだ」という価値観が現代のデザイナーの間では共有されつつあると言えるのですが、非デザイナーの人々(会社の役員、マーケティング担当者、デザイナーに依頼したい人等)にとってはその価値観への馴染みが薄い場合もあるでしょう。

本書では、このようなデザインに対する価値観の変化に対して随所で触れられています。デザイナーはもちろんですが、そうではない人も本書を読むことによってデザインに関する効果的な対話方法を理解するのに役立つのではないでしょうか。


ここで述べた2つの観点は、実務を行うデザイナーにとって完全に新しいものという訳ではないかもしれません。しかし、このような考えをこれまで対象とされていなかったより広い間口の人々に伝えようとしている点まで含めて捉えると、この本の価値が見えてくるのではないでしょうか。

印象的だったディスカッションの内容

Book Clubでは決められた範囲を各自で読み、それについて毎週1時間かけてディスカッションを行うというスタイルをとっています。『デザインの伝え方』では基本的に1週間に2章ずつのペースで読み進めていました。以下では、個人的に印象に残った5章と10章に関するディスカッションをピックアップしたいと思います。


■5章 「聴くこと」は理解すること→日常での暗示的なコミュニケーションについて
5章では、4章で触れられたプロジェクトに影響を持つステークホルダーを「理解する」ことの次の段階として、彼らの話を「傾聴する」ことの重要性ついて述べられています。彼らに対して提案するデザイン案の準備が作り終わった後、彼らと取るコミュニケーションでまず求められるのは伝える力でよりも、聴く力だと主張しているのです。

ここでいう「聴く」とは、単に「相手の話がひと段落して自分が応対する番を待つこと」ではなく、「自分が応対する前に相手の話を傾聴することで、真に話したいことや伝えたいことを理解すること」を目的としています。このような内容について書かれている5章全体を読んだ後、私たちの間では現場で起こっている暗示的なコミュニケーションやそれに関連することについて以下のような話が挙がりました。

最近はオンラインでミーティングを行う機会が多いがアイコンタクトやうなずきのようなノンバーバル・コミュニケーションを取るのが大変になった気がする。
海外だと人の話を聞く際に、声でうなずきを入れたりすることが逆に失礼に当たる場合もあったりする。ノンバーバル・コミュニケーションにはそういった文化の違いが出やすい。
人の話を聞く際、話を遮ってしまわないように気をつけてはいるが実践するのは難しい。
メモをとってそれを見せながらプロセスを進めることについて多く言及されている印象。ただ、オンラインの機会が増えたことでその心理的なハードルが上がっている気がしないでもない。

人の話を聞く際に声でうなずきを入れることの意味合いが異なるといった、文化の違いとノンバーバル・コミュニケーションに関する話は、海外への関心が高く、今秋からデザインスクールへ留学予定の大倉さんらしい視点のように感じました。

■10章 会議直後のチャンス→非公式な場で発見した情報の取り扱いについて

10章では、ステークホルダーにデザインを説明した後の、フォローアップのプロセスについて述べられています。会議直後に適切なフォローアップを行うことによって、会議直後に発生した懸念点を解消したり、自分たちの目指す方向性に賛同してくれるさらなる支援者を見つけることが可能になります。また、デザインに限らずどのような仕事においても、立ち話で仕入れた情報が確信をついているといったことは往々にしてあります。このような公式で定められている会議以外の場所で、いかにして本音を引き出すのかといった事柄についても触れられています。

10章で行った対話の中で印象的であったのは「公式ではない場で引き出せた有益な情報はどうやって扱うべきなのか。また、それを公式の議論の場に持っていくとしたらどのように取り扱う必要があるのか。」といった内容についてでした。


幅広い業界でのデザイン経験をもつ野村さんの話では、立ち話で得た情報が公式のミーティングの最中で至った結論を変えるものではなく、それを補足するような場合は資料の中にシレッと補足情報として入れてしまう場合も結構あったりするようでした。また、別の扱い方として「考えるべきトピックがあるのですが、これについていかがでしょう?」といった形で次の議題として扱うやり方についても挙げていただきました。

有益な情報を自身が持っていたとしても、それを適切なタイミングや方法でステークホルダーに共有することはやはり難しい。そんなことを改めて考えるきっかけとなった回でした。


おわりに

今回は『デザインの伝え方』という本をテーマにBook Clubの活動をまとめてみました。僕個人にとっては、業務や日々のコミュニケーションについて考えるための、多くのきっかけを与えてくれる本という印象が強く残りました。「コミュニケーション」というキーワードに対して引っ掛かりを感じた方は、一度読んでみてはいかがでしょうか。


ANKR DESIGNではこのように社内の読書会の様子をnoteでお送りしています。この取り組み全体については下記の記事に詳しく書いています。


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