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今日からひとり。

ある日のこと。
学校から帰ると
母の姿はなく、祖母が待っていた。

「今日からおばあちゃんたちと暮らすんだよ」

何が何だか分からず、手を引かれて祖父母と叔父夫婦の営む飲食店の上の住処へ。

この日から 母は帰ってこなくなった。

事情もわからないけれど
聞いてはいけない気がして
当たり前のように 従兄弟たちとテレビを見て、食事をして
祖母の隣で眠ることになった。

祖父は この頃外へ勤めに出ていて
バスで帰ってくる。

(おじいちゃんなら お母さんはどうしたのか教えてくれるかもしれない)

そう思ったわたしは
ある日バス停で祖父の帰りを待った。
トトロのあのシーンのように。

バスから降りて来た祖父は
大きな手で わたしの手を包み
何も言わずに帰宅する。

また聞けなかった。

優しい笑顔で 膝の中に座らせてくれる祖父。

そうか。
もう ここがわたしの居場所なんだ。

叔父夫婦の前でも
祖父母の前でも
わたしはちゃんと笑って見せた。

元気な女の子は 
いつも笑って 学校に行き
母がいないことを 誰にも言わなかった。

先生にも。
友達にも。

もう酔って お酒臭い母から
寝たふりをして逃げなくていいんだ。

これでいい。
これがいい。

うちは お店が忙しいから
お母さんもお父さんも
どこにも連れて行ってはくれないんだ。

それは従兄弟たちも同じ。

これでいい。

小学4年生、10歳のわたしは
従兄の妹で
いつも元気な
嘘つきな女の子になったのだ。

母はわたしのことを
捨てていったのだ。

もう 忘れよう。

ここは充分 居心地がいいから。


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