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君が恋人だった最後の日

その日は、イルミネーションを見に行く約束をしていた。前日、その前にちょっと話したいことがあるとLINEで伝えた。

当日、玄関のドアを開けて、ホワイトムスクのルームフレグランスの匂いが今日で最後であることを、悲しく思った。彼の家に着いてから、しばらく体育座りで気まずそうな様子のわたしと、TVでサッカーを見て課題をしている、わたしには興味もなさそうな彼。いつもと変わらないこんな光景も今日で最後だよ。

察して欲しげな表情でずっと彼を見ていたら、しばらくして、

電車乗る?今日行かないの?
と彼が言った。

うん、行かない。
とわたしは返した。

TVで流れるサッカーの試合だけが、その場の空気を軽くしていた。言い出せたのは、それから30分ほど経ってからだった。

ねえ、わたしのこと本当に好き?

うん。

そっか。

心の中では嫌いでいてよって思った。可哀想で心が苦しかった。でも今日伝えると決めていた。クリスマスは一緒に過ごせない。 

あのさ、私たち友達に戻らない?

この前話し合いをして考えたこと、
やっぱり距離を感じて寂しいこと、
お互い優先したいものが違うこと、

そして、わたしがクラスでモテていること、
クリスマス3人の男の子に誘われていてその人たちに早く別れて欲しいと言われていること、

を言葉を選びながらも伝えた。彼は、それはしょうがないねとすんなり受け入れてくれた。なんなら、そんな漫画みたいなことある?新しい人と進展したら連絡してねと笑っていた。(流石にどういう感情?)だから、誰と付き合えばいいと思う?とか相談したり、一年も付き合うと思ってなかったね!と思い出話をして、その後は普通の友達みたいにしてた。なんだ〜彼は悲しくないのか、と複雑な気持ちになったし、終始彼の顔は見れなかった。じゃあそろそろ帰る?と彼の家を出て、

じゃあね、バイバイ。ありがとう!

じゃあね!

玄関先で笑って手を振っていた、最後にやっと見れた彼の表情がずっと頭から離れなかった。

クリスマス1週間前。
初めてできた彼氏とお別れした。



彼の家から自分の家へ帰る帰り道、もう隣にわたしを送ってくれる彼はいなかった。

さっきまで彼と笑っていたはずなのに、急に寂しくなって悲しくなって涙が止まらなかった。

彼と初めて出会った日、彼と初めてLINEした日、彼と初めて遊んだ日、彼と初めて電話した日、彼が告白してくれた日、彼と初めて手を繋いだ日、彼と初めてキスした日、彼と初めてお泊まりした日、彼と初めて旅行した日。そして今日、彼がわたしの恋人じゃなくなった日。

大学も、バイトも、水族館も、動物園も、野球も、ビルの夜景も、お花見も、ドライブも、温泉も、誕生日も、花火も、紅葉も、今年、どこに行くにも隣には彼がいた。いなかったのはクリスマスだけ。

彼と出会ってから今日まで、2年分の思い出が走馬灯のように流れてきて、人目も気にせず泣きながら歩くしかなかった。彼と付き合って2人で何十回も歩いたこの道が、2人で作ったたくさんの思い出があまりにも憎かった。楽しくなかった思い出まで全部楽しかったような気がして、振ったことを後悔した。

もう好きじゃないし、わたしにはもう次の人がいて気持ちを切り替えていたはずなのに、しっかり未練タラタラで、その日はずっと泣いていた。クリスマス誘ってくれた男の子のうちの1人が電話してくれたけど、その人の前でもずっと泣いてた。翌日も学校に行く電車の中で泣いていた。でもその翌日には復活した。




振り返ってみたらあっという間だったと思う。2022年1月、初めてちゃんとお付き合いというものをして、これまでの都合のいい関係とは違う、好きな人の彼女になれた。しかも、相手はずっと推しだった男の子。

ちゃんと好きだったし、初めは愛されてた。だから、たくさんの初めてをあげた。これまで知らなかった感情をたくさん知った。でも、最初の頃のような気持ちは長く続かなかった。

彼氏がだんだん自分に冷めていったような気がした。正確には冷めたのではなく、わたしが彼の素の姿を受け入れられなかったのだと思う。でも、デート中にスマホを手放さないとか、会話を無視するとか、平気でドタキャンを繰り返すとか、スキンシップがないとか、そんな彼氏よりも、自分のことを大切にしてくれて、尊重してくれて、ちやほやしてくれて、わたしをクラスのアイドルにしてくれる、男友達たちと比較してしまっていた。

別れる二週間前、勇気を出して話し合いをした。
わたしのことをどう思っているのか聞いて、今まで溜め込んでいた不満も伝えた。だけど、わたしのことを好きだという割に、好きという気持ちは伝わってこなかった。私たちは、きっと別々になった方が幸せになれる。そう思ってしまったこの話し合いが、最後のトリガーだったように思う。


大好きなドラマストアの青い栞という曲の歌詞に、こんなフレーズがある。

君があの日のことを忘れても
僕があの日のことを覚えてる
それだけでいいよ それだけでいいよ
僕らの青春は終わらない

さよならを重ね合うたびにまた
今が何よりも幸せだよと
言えるならきっと思い出でいいよ
また会えた時に奇跡の続きをしようよ
ドラマストア、青い栞

別れてからずっとこの曲ばかり聴いていた。
もし、彼が運命ならきっといつかまた出会える。
だから大丈夫。本当に必要な人なら帰ってくる、そう言い聞かせて、わたしは立ち直った。たまに思い出すことはあっても、もう後悔はしていないし未練もない。


彼氏くん、たくさんの思い出を作ってくれて、わたしをモテる女の子にしてくれてありがとう。ちゃんと好きだったよ。男性不審だったわたしが信用してもいいやって思えたのは、君が初めてだったよ。これからお互い幸せになろうね。陰ながら応援してます。いつかどこかでまた会えたら、その時はよろしくね。


これでマガジン恋3はとりあえず完結。

2022.12.30



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