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ばあちゃんのウインナー

ごく小さい頃、我が家でウインナーといったら赤いウインナーのことで、茶色いウインナーに憧れがあった。というかそもそも、加工肉ということでいうと我が家はウインナーはあまり主流でなくダントツにハムだった。ハムエッグやハムサラダはよく食卓に登っていた記憶があるけどウインナーはそこまで積極的に登場はしていなかった。そして時折登場するのがばあちゃんの赤いウインナーなのだった。

そういえばばあちゃんはソーセージと呼んでいたような気がする。とにかく覚えているのは、ばあちゃんがそれを調理する時普段あまり使ってない感じの黒いフライパンを出してきて油でジャッ、と炒めるのだけれど、かなり塩胡椒を効かせたそれは熱くて辛くて塩っぱくて、小さい子が美味しい美味しいと食べるにはちょっとハードだったような記憶がある。けど、なんかその食べにくさも味の一部というのか。けっこう喜んで食べていたように思う。

そう、ばあちゃんの料理はばあちゃんの流儀というか、ばあちゃんなりのこだわりがあったようで、今振り返ってみるとけっこうしっかりした味付けのものが多かった。ばあちゃんの赤いウインナー炒めは油で光って塩の粒とか胡椒が点々としていた記憶がある。油も塩胡椒もけっこう使ってたんだろう。

後年、懐かしさから記憶を頼りに赤いウインナーを買ってきて塩胡椒で炒めて食べてみたことがある。あの味を求めて。

でも違ってた。同じ感じにならなかった。

ウインナーも同じものではないだろうし、調味料だって微妙に違うだろう。
フライパンとか火力も違うけど、何より一番違うのは思い切りと胆力みたいなものかも、と思う。

なかなか厳しいばあちゃんであった。
子ども心にばあちゃんはこわいと思ってた。
その割にばあちゃんの部屋に行ってはお菓子を食べたりみかんを食べたりしていたけど。

夫を戦争で亡くして仕事しながら乳飲み子だった父を育てた。
なかなか厳しい人生だった。

まぁ、同じ味になる訳ないか。

次やってみる時には躊躇せず油も塩も胡椒も使ってみよう。

思いっきり火力も上げてみよう。

ちょっとは気合入った味になるかもしれない。

ばあちゃん仕込みの、赤いウインナー。

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