【らくがき日記】百均は宇宙
2021/6/21
仕事からの帰り道に、割と大きめな百均があるんだけど、外見がすごくさびれているので、あえて入ろうと思ったことはなかった。でも、今日はなんとなく寄り道がしたかった。外が明るいと、どこか浮かれる。そういえば今日は夏至だったな。
ちょうど買いたいものもあったので、その古い百均に寄ってみることにした。中は至って普通の百均で、時代遅れなものが売っているわけでもなく、わたしが知っている商品が所狭しと並んでいる(当たり前だけど……)でも、建物の作りが昔風だからなのか、商品棚はどれも背が高く、ごちゃついた雰囲気を醸し出していた。どこに何があるのかがすぐわからない。迷路みたい。
こういう雑然とした空間、嫌いではない。わたしはいつの間にか夢中になって、延々と続くショーケースを眺め回していた。不思議なことに、そこはとても面白かった。いつも行く百均と同じ商品が揃えられているはずなのに、妙にワクワクする。手芸コーナーに布の端切れがたくさん売っていた。手繰りながら見ていくと、結構ちゃんと使えそうな可愛い生地もあったりして、顔がほころぶ。
しばらく歩いていると、鉄製の商品棚に、クロワッサンが張り付いているのを見つけた。おや?と思って近寄ると、それはマグネットだった。クロワッサンの他には、プレッツェルや、お皿にのったワッフルなどがある。手作り感あふれるいびつなパンが、目立たない店の片隅にぽいっとくっついているさまが、わたしの心をちみりと動かした。か、かわいい……
気づくとマグネットをふたつ、カゴに入れていた。商品の説明がどこにもなくて、なんにもついてないので、これ本当に売り物かしら?と不安になりながら。ちなみにわたしはマグネット収集家ではない。このクロワッサンとプレッツェルが、自分で買ったマグネット第一号である。否応なく、足取りが軽くなる。
わたしは店内をゆっくり練り歩いた。1日働いて、かなり疲れている。かなり疲れていて、それでも自分なりに納得のいくお仕事ができて、それから今日は、日が長い。そんでもって計画性もなくふらりと、見知らぬ店に入った。この全てがなければ、今わたしは愉快ではなかった。なんてことを脳みそから遠いところが感じているが、うまく言葉にはできない。
1階から2階へ上がり、それからまた、1階へ戻って一周した。黒いリュックを背負って、半袖ハーフパンツの男子中学生とすれ違った。実はこの少年、さっきから何度となくすれ違っている。手芸コーナーにもいたし、2階の園芸コーナーにも、それから今は、文具コーナーで。何か探しているのだろうか。買うものもないのにフラフラしてどうしたのだろう?もしやわたし、つけられているのか?
とかひととき考えて、我に帰った。いや、わたしもじゃん。少年、思っていたことだろう。あのお姉さん(おばさん?でないことを祈る)カゴに商品入ってないのに店内端から端までじろじろ睨め回して、しかもおれと動線かぶってんじゃんかよお、あやしーな……
ごめんよ、少年。わかっているのだ。百均は宇宙だ。あまりに広く、深く、こまかい。数えきれない商品で埋め尽くされたこの宇宙を知り尽くすには、それらをかき分けるようにして端から端まで泳がなくてはいけない、ということを!
便利だったりコスパ良かったり、突拍子もなかったり意味をなさなかったり使い道謎だったり、もはやネタだったり……100円ってだけで、ジャンルも性能も様々なものたちが織りなす、雑然としたモザイク画みたいな、百均という宇宙。それから見知らぬ場所の古びた店。異世界への扉は、意外とどこにでも転がってるもんだ。ああ面白い。
あ、例のマグネットだが、家に帰って落ち着いてよく見たら、色をちょいちょい塗り忘れてるし、ボンドはみ出てるし、クロワッサンの先端折れてた。後悔は、ない。これからもときめきに正直に生きていこうと思う。(きっぱり。)
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