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高田馬場で綱渡り作家のロックなトーク&サイン会がありました。

 芳林堂書店高田馬場店さんのご厚意で、5月7日(日)に読者さんと交流ができるイベントを開いていただきました。

 ご存じのとおり、青木杏樹は覆面作家です。経歴を明かしたり顔出しができない理由はたくさんあるのですが、1番の理由は、作品が主役であってほしいという考えからで、わたしは「作品の裏方」でありたいという思いからです。特にわたしの名前が表紙に掲載されるような長編小説の場合、担当編集者さんをはじめイラストレーターさんやデザイナーさんといった、たくさんの方が関わって1冊の本をひとつのチームで制作します。『女王の番犬』以外は現代日本が舞台で、人間ドラマを全面に押し出したサスペンス・ミステリ作品ですから、より「作品の裏方」であらねばと注意して書いていました。日頃から作家個人の主張や人物の輪郭が大きいと、○○主義のアイツが書いたんだよなぁ……などと、キャラクターに作家本人の意思を代弁させていると思われてしまう恐れがあり、フィクション作品として純粋に楽しんでいただけないのではないかと個人的には考えています。

 Twitterでは、ご親切に書籍の購入や感想を投稿してくださった御方に対し、感謝を伝えることはありますが(驚かせてしまったら申し訳ありません……ただ感謝の気持ちを伝えたいだけです……)わたし個人のナーバスなことは投稿しないよう心がけています。青木杏樹の「作品の裏方」の事情など、1冊の本を楽しみたい読者さんには不要な情報だと思うからです。
 デビュー前からその意向は担当編集者さんにお伝えしていました。
 たいへんありがたいことに、友人たちも「あーなるほどねー作家だったのかーだから家で仕事してるんだねー」と言うだけで、わたしを出版業界の人間として特別扱いすることは一切ありません。ただ興味がないだけなのかもしれませんけれど(笑)

 昨年の10月に新潟県で講演会を開いていただいたときが、実は初めて読者さんの前に立った瞬間でした。正直……オファーをお断りしようか、かなり悩みました。作品のことであーだこーだと盛り上がっていただくことが「作品の裏方」の仕事だと考えているのに、わたし個人が前に出るのは矛盾してはいないのだろうか、と。

 ……ですが、すこしだけ考えが変わったのは、『純黒の執行者』が発売されてからしばらくして、担当編集者さんから「いま持っているシリーズはすべて打ち切りです。企画書を出していただいても青木さんは会議では通りません」と言い切られたときからです。あのときの重苦しい空気はいまでも忘れられません。
  担当編集者さんに言いたいことは山ほどありました。でも、実際売れていないのだから、なにを言ったって負け犬の遠吠えです。
「お世話になりました」
 これが俗にいう干されたという状態か……としみじみ感じながら、不思議と涙は出ないなぁと意外に冷めた頭で帰宅しました。
 さて筆を折る前に短い作家人生だったけれど楽しかったと思いたいし……と、いままで読者さんからいただいたファンレターを一通一通読み返すことにしました。するとみるみる涙があふれてくるじゃありませんか。

 この先、この人たちに物語を届けられないことが、めちゃくちゃ悔しい。
 ただただ、自分の力不足が憎い。
 売れなきゃだめだ。自己満足じゃだめだ。
   わたしは仕事で小説を書いているのだから、承認欲求のために物語を綴っちゃいけない。
「作品の裏方」を貫くのなら、わたし自身も「作品」じゃないのか?
 わたしは青木杏樹という「商品」になる覚悟が足りなかったんだ……。

 そうしてまずは宝島社さんの『万年筆のある毎日』で、著者の撮影NGを最低限の条件に、青木杏樹という作家に対する取材を受けました。新潟県での講演会もその条件でお受けしました。覆面作家としてギリギリのラインで「作品の裏方という商品」青木杏樹は在ろうと考え方が変わったのです。
(ちなみに内田康夫ミステリー文学賞受賞時は打ち切り前のため、特別に「変装」の了承を得ていまして、面影すら……すみません……)

 前置きが長くなりました。
 覆面作家なのになぜ受けた?という背景事情としてはそんなところでして……芳林堂書店高田馬場店さんのトーク&サイン会もお受けしたというわけです。こんないつも崖っぷちの綱渡りマイナー作家にご提案くださった、芳林堂書店高田馬場店さんとのご縁については別記事をご覧ください。


「何人来てくださるのだろう……5人くらい来てくださったら御の字」
 その貴重な5人にめいっぱい楽しんでいただきたい、そして芳林堂書店高田馬場店の書店員さんに「青木杏樹を呼んでよかった」と思ってもらえるように、思い出に焼き付く衝撃的なイベントにしようと打ち合わせをしました。

 結果として、あんなんになりましたね。
 登場した瞬間、皆さんが大爆笑してくださって本当にうれしかったです。
 当日はあいにくの天候で(寒かったし雨も風もひどくて石川県で大きな地震もあって……)体調不良になられた方も多く、ご来場をあきらめざるを得なかった方もいらっしゃいました。なので、できる限り、どんなイベントだったのかお伝えしたいなぁと思いこれを書いております。

 なんの曲で登場したのかは権利関係のアレで察していただけるとたいへんありがたいです。はい。ロックにマイクスタンドを握って登場しました。

 場が温まったところで、芳林堂書店高田馬場店の店長さんが司会進行をしてくださいまして、わたしから30秒程度の雑な自己紹介。名前くらいしか言ってない気がします。ゴールデンウィークの最終日の日曜日にもかかわらずお申込みありがとうございますと月並みなご挨拶をしました。
 あれ……? 5人来てくだされば御の字と思っていたら、用意された椅子に性別問わず老若男女、結構な人数が座っていらっしゃるではないですか……。その光景にとても驚きましたし、とてもうれしかったです。

 事前に質問用紙をお配りしていましたので、参加者の皆さんの質問にお答えしていくトークがメインでした。一部ご紹介します。

■いつも遅い時間(朝早い時間?)にツイートなさっていますが、いつ寝ているんですか?
⇒体力の限界まで仕事をして、もう限界と思ったら横になっています。寝る時間はだいたい朝方です。3時間から5時間ぐらいの睡眠で起きますね。飼っているペットのハムスターが夜行性なので、生活リズムがハムスターみたいな? Twitterの投稿は原稿から離れたときにやっているので、そうなると必然的に朝方になっちゃいますよね(笑)

■いままでで1番印象に残っている夢はなんですか?
⇒担当編集者とバトルしている夢です。そう考えるとわたしってずっと仕事してますね……。

■お話のアイデアはキャラ先行・ストーリー先行どちらですか?
⇒ご依頼いただく内容によります。実はSF畑出身なのですが、いまのところサスペンス・ミステリのキャラ文芸のご依頼が多いので、そういうお仕事はキャラ先行になりますね。

■物語のプロットはどれぐらい時間をかけてつくりますか?
⇒それも案件によってバラつきはありますが……あ、そうだ。デビュー作の『ヘルハウンド』はKADOKAWAの担当編集者さんと初顔合わせの前日の夜にサスペンスのプロットも用意しようかなと思い、6時間くらいで書き上げました。わたしの場合はプロットに時間をかけると小難しいものができてしまうようで、脊髄反射で生まれたネタのほうがモノになりやすいかも。

■続刊の内容やラストに向けてのストーリーは1冊目の時点で方向性を決めていますか?
⇒おおまかには決めていますが、書下ろし小説の続刊は売り上げにもよりますし、作者が決められるものでもないので、1冊でちゃんとまとまったものを世に送り出せるよう心がけています。特にいまはそうですね。シリーズになる前提で1巻目を書くということはないです。

■『フェイスゼロ』の山田先生の衝撃的な過去は、デビュー作『ヘルハウンド』のときには考えていらっしゃったのでしょうか? 人物の背景など細かく決めてから作品をつくるのですか?
⇒山田誉の過去は『ヘルハウンド』執筆の時点から詳細まで決めていましたが、担当編集者さんには話していませんでした。わたしの場合、原稿用紙に手書きで、いったん登場人物たちの裏の動きもぜんぶ書いちゃうんです。そこから推敲して半分以上は削って、担当編集者さんに「初稿」としてデータで送ります。なので原稿用紙の消費量が1冊につき3000枚とか4000枚とか、わけわかんない枚数なんですよ(笑)

■『ヘルハウンド』の続編はありそうですか?
⇒んー……KADOKAWAさんにぜひご要望のお手紙をお送りいただきましてですね……(笑)

■どの作品も個性的なキャラクターばかりですが、どうバランスをとってますか? すごくまとまっているのでびっくりします。
⇒わたしの作品ってキャラ渋滞を起こしてるんですけど、なぜか不思議とまとまるんですよね。それは担当編集者さんも不思議がっています。わたしも不思議です。

■杏樹先生の5年後、10年後にはこうなっているぞ! という未来予想があれば教えてください。
⇒そもそも生きてるかなぁ……。

■オン・オフの切り替えはありますか?
⇒うーん、ないですね。頭の中では常にいろんなキャラクターがわちゃわちゃしています。

■ファンレターを送りたいと思っているのですが、感想が拙くても大丈夫なのでしょうか。作品への理解や先生が込めたものと相違があるのでは? それはとても失礼なのでは? と心配しています。
⇒「好き!!!!!!!!!!!!!!」って、「!」で便箋いっぱい埋め尽くされているだけでもじゅうぶんこちらに伝わりますので、青木杏樹には思いのたけをぶつけて大丈夫です。個人的には感想ってどう読み取ったかという感情だと思いますし、文章でうまく表現できない支離滅裂なものになって当たり前だと思っています。……まぁ真面目にお答えしますと、編集者さん、営業さん、校閲さんといったいろんな方の目でチェックされた上で発刊されているものですから、お手に取られた方の多様な価値観、無限の解釈で楽しんでいただける商品になっていると思います。作者の意図なんて気にしなくていいですよ。わたしはお手紙をもらえるだけでうれしいですから、ハードルを低くいきましょう(笑)

 ……と、いただいたご質問の一部ではありますが、こんな感じでお答えしました。

 最後に『ヘルハウンド』『女王の番犬』『純黒の執行者 正しい悪魔の殺しかた』の手書き原稿の原本を、それぞれ抽選でプレゼントしました。当選された方、おめでとうございます。汚いけど……いいんですかね?
 実際に発刊された文章とは違う部分も多いので、SNSに上げるのは構いません。ただ複製と転売だけは禁止です。いらなくなったら燃えるゴミで捨ててください。わたしも基本的には手書き原稿は発売された時点で捨てています。だって担当編集者に「いりますか?」って訊いたら「捨てればいいんじゃないですか?」って言われたし……その程度の価値ですよ(笑)

 そのあとはサイン会でした。
 読者さんおひとりおひとりと、ゆっくりお話ができて、作家として1番幸せな時間を過ごすことができました。心から感謝申し上げます。
『純黒の執行者』シリーズのファンとおっしゃる中学生の男の子が来てくださったり、朝まで青木杏樹の最新作を読んでいて寝坊してしまいイベントに遅刻された方もいらっしゃったり……そのお気持ちがすっごくうれしくて胸がいっぱいになりました。土砂降りの雨の中、走って来られたのかなとか想像すると泣きそうになりますね。作家冥利に尽きます。
 仙台から来てくださった方、福岡から飛行機で(!)来てくださった方、神戸から来てくださった方……。確か神戸から来てくださった方が『ヘルハウンド』の原稿当たったんですよね?(間違ってたらごめんなさい)
 あとはお会いするのが初めての同業者さんとか。
 まさかの担当編集者さんとか……。
 新聞社の方とか。
 皆さんお忙しい中、わたしのアホなTwitterの投稿を見てくださっているんですね……。皆さんまるで打ち合わせでもしたのかと思うくらい、去り際に「ちゃんと食べてくださいね」って言ってくださって、あぁ、え、あっ……はい……お土産冊子に<ミ〇ティア+炭酸水+ラムネ菓子=3日徹夜イケる>と書いたとは返せなかったですねー……。
 声優さんの話で盛り上がったりもしました。作品を読みながら「このキャラはこの声の系統の人がいい」とか妄想しますよね~。わたしも杉〇智和さん大好きです。
 それからどなたとは申し上げませんけれども、デビュー直後からずーっと、刊行するたびにお手紙をくださる読者さんが来てくださっていました。わたしが担当編集者さんからダメ出しばかりくらって、腐りに腐りきっていた時代(Twitterのフォロワーが数十人しかいなかった頃ですが。誰も見ていないだろうと愚痴をこぼしてしまったことがあり……)ご存じでいらっしゃって、なぜか先に謝られてしまったのですが……。むしろわたしのほうこそ、デビューしたての新人だったとはいえ、作家として読者さんに見せてはいけない状態をお見せしてしまったことを謝りたかったです。幻滅されて当然だろうなぁと思っていました。謝りあっていたらお互いに泣きそうになっちゃって……ごめんなさい。これからはあんな情けない姿を晒すことはしません。わたしも(端くれながらも)お仕事として小説を書いているのですから。あなたが送ってくださったたくさんのお手紙に何度励まされたことか。ずーっと、ありがとうございます。『ヘルハウンド』1巻のときから、ぜんぶ大事に保管していますよ。これからもお手紙待ってます。

 お土産もいっぱいいただきました。
 土砂降りの雨なのに……泣きそう。いや泣いた。

大きすぎてここに入りきらないものも……?
綺麗なお花もありがとうございました!

 ひとつひとつご紹介していくと文字数がたいへんなことになるので画像で失礼します。わたしがもらってうれしいプレゼントぶっちぎりの第一位・お手紙もいっぱいです!

 皆さんが想像される作家のイベントとはちょっと……いやだいぶ変わったイベントになりましたが、楽しんでいただけたのでしたらなによりです。

 最後に芳林堂書店高田馬場店の店長さんをはじめ、書店員の皆さん、ご準備本当にたいへんだったと思います。日々の業務でお忙しい中ありがとうございました。版元関係者の皆様のご協力にも深く御礼申し上げます。

 今後もどうぞ隙間産業作家の青木杏樹を、ぬるーい、生暖かい目で見守っていただけますと幸いです。読者さんと1冊の本を通じて交流できる職業を誇りに思います。長くなってしまい申し訳ございません。ここまで読んでくださってありがとうございました。

 2023年5月9日 青木杏樹

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