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和歌山県・有田郡【街の中の私、私の中の街】

私の本籍地は、和歌山県有田郡にある。

和歌山県といえば、黒潮市場やマリーナシティなど海のイメージがあるかもしれないが、有田郡はめちゃくちゃ山の中である。

祖母の家の周辺は電波が悪すぎてネットが使えない。
時折、スマホのGoogleマップが使えなくなって道に迷った車が祖母宅の周辺をうろちょろしている。

店の類は一切無い。
しいて言えば、祖母宅から数十メートル歩いた先に飲み物の自動販売機がある。
スーパーにでも行こうものなら、山道を車でブウンと走り抜けないといけない。私は免許を持っていないので、祖母の家に一人で残されたらたぶん、街に出られず遭難する。

私の本籍地はこの町(もとは村)にあるのだが、実際の私は和歌山県に住んでいるわけではない。
父親が自分の生まれ育った土地に私の本籍地を置きたがったというだけで、私は書面上は和歌山県民ということになってしまった。

見渡す限り、ぽつぽつとした民家と山と川(あと田畑)しかない、電波もろくに通っていない町。

周りの家が全部知り合いで、親戚もいたるところに住んでおり、遊ぶところも逃げ込む場所もない。
小さい生き物が家の中にも外にもいて、不運な年の夏にはカエルと一緒にお風呂に入ることもあった。(小学生だった私は泣いた)

盆や正月が来るごとに訪れはするものの、この町のことはずっと好きになれなかった。

去年、一昨年と続けて、この町に住んでいた祖父と祖母が亡くなった。
お風呂にカエルが出没するあの家も、所有している土地も、買い手が全くつかないらしい。

このまま誰も住まない家が増えて、ゆるゆると町から人がいなくなっていくのだろうか。

人の気配が消えたあの家に、毎年欠かさず訪れるのはカエルだけになるのかもしれない。


新開地ニューあそび場の創造
安住の地「ライトシティ」


日時:2024年2月9日(金) ~ 25日(日)
場所:新開地アートひろば

あたらしい街にやってきて思うこと。
見慣れない街灯、住宅の明かり。
どれもまだ自分の街じゃない。
いつしか私は住人を名乗り、自分が「街」の一部に変わる。
気が付けばその街が「自分自身」を作っている。

本企画のテーマは「街に馴染む」
安住の地劇団員が考えた関連企画や、訪れた人の手で変わっていく展示空間、そして新作の演劇作品を発表します。
リニューアルした新開地アートひろばで、
安住の地と一緒に、新しい街「ライトシティー」を考えてみませんか?

演劇公演『あかり。』

脚本:武田暢輝
演出:森脇康貴、武田暢輝
〈あらすじ〉
そこに街があった。私たちは街の中で、街の一部として生きていた。
その街に生まれた新生児・灯(あかり)の身体は光をまとっていた。
灯は身体が発光する以外は、どこにも異常はなかった。ただ、光り続けていた。
いつしか街のシンボルになった灯は、この街の一市民になることを夢見る。

詳細はこちら▶ ライトシティー特設ページ

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