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カキフライの広告:Anizine(無料記事)

俺は広告育ちなので、広告が下手な人を見ると苛立ったり勿体ないと思ったりします。苛立つのは自らの能力を水増しした「誇大広告」で、勿体ないと感じるのは、本当は能力があるのに「宣伝不足」の場合です。

自分のものや関わっている出来事を宣伝するのは恥ずかしいですし、とても難しいものです。皆に知って欲しいという感情はただ素直にシンプルに提示すればいいのですが、普通の人は告知なんてやったことがないので伝達工学に反した妙なことをしてしまいます。素朴すぎて伝わらないのはまだましで、よくあるのが「広告の真似ごと」のような、コピーライターじみた言い回しを使っているのをみかけます。これには嫌悪感しかありません。

「みんなの楽しいを応援します」とかいうポスターを公民館みたいなところで見ることがありますが、とても気持ち悪い。

素直に、シンプルに、正直に。告知はこれにつきます。嘘をついたり他人のチカラを使って盛ってみても長続きしません。能力がないのにあるように飾って見せてもバレてしまえば信用を失い、大きなマイナスになります。

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自分がやっていることを大勢の人に伝えるにはどうすればいいでしょうか。みんなネットを見ている「時間帯」や「頻度」がそれぞれ違います。一生懸命告知をしても目に触れずにタイムラインは流れ去ってしまうのです。ですから何度も繰り返し同じ情報を提示する必要があるんですけど、毎回同じモノのコピペを見せられると今度はウンザリする人が出てきます。まだ知らない人には「新鮮なニュース」として、もう知っている人には違う切り口での「追加コンテンツ」が提供できていなくてはならないのです。

たとえばとんかつ屋さんが新しいメニューのカキフライランチを始めたとします。スタート時は「カキフライランチが新登場」でいいでしょう。でもそれをたまたま見て知るのはフォロワーの中の数%だけのはずです。カキフライランチが始まったことを知らない常連客はまだまだたくさんいます。でも同じ投稿を毎日続けていたら「またかよ」とウンザリされてしまう。

たとえば「先日、プライベートで広島に行ったんです。やはり宮島のカキは美味しいですね。うちで使っているのも広島の新鮮なカキなんです。ぜひ新メニューのカキフライランチをお試しください。月曜は定休日です」と書いてあったらどうでしょう。

これならすでにカキフライランチを知っている人も読んでくれるでしょう。シズルを表現したことで「認知から行動への後押し」になったかもしれません。もちろんここで初めて新メニューを知る人もいますから、最終的にはフォロワー全員に届くわけで、評判がよければフォロワーの外の人にも拡散されていきます。

俺の本である『ロバート・ツルッパゲとの対話』は、Amazonで数ヶ月前から予約を取り始めました。どんな内容の本かがわかりにくいタイプだったので、発売前の時間を長く取りたかったからですが、発売までは「今度、俺の書いた本が出ますよ」の連投で情報は十分でした。そして、発売してからはタイトルのロゴ部分だけを共通にして、本の表紙とはまったく違う無関係なモノに変え、毎日情報をアップすることにしました。カキフライランチの方法です。もう知っている人と購入済みの人は毎回同じ書影を見ずに済み、ただ新しい写真をコンテンツとして面白がっていればいいだけです。この方法はどんなものにも使えます。

古い話ですけど、イモ欽トリオの『ハイスクールララバイ』という曲がありました。テレビのバラエティ番組から生まれたふざけた曲ですが、作詞と作曲は松本隆・細野晴臣さんで、サウンドは完全にYMOでした。テクノポップが好きな音楽マニアとファミリー層が同時に満足できる多層的で効率のいい伝達方法が埋め込まれているな、と感心したものです。

メジャーになるものにはこのメソッドが多く使われていますし、結果としてそうなっていたことにあとから気づくこともあります。エンジェルスの大谷翔平選手は卓越した技術で玄人の野球マニアを驚嘆させ、野球にそれほど興味がない「あの笑顔が可愛い」という層も同時に取り込んでいます。この二種類の物差しを持っていることこそがメジャーの条件なのです。メジャーが重複してますけどね。

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(無料記事は、今回は無料だけど、定期購読するとこういうことが書いてあるからメンバー登録よろしくね、大人ならわかるよね、という意味です)


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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。