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水の国籍:Anizine

水に「ありがとう」と声をかけても、何も変わらない。

なぜなら彼らは言葉を理解しないからだ。もしそれで水が美味しくなると本気で思っているのだとしたら、自分のコミュニケーション能力を疑ったほうがいい。問題は水ではない。

自分が言いたいことに相手が理想の反応をしてくれないと苛立つ人がいる。それは会話の主導権、司会権を自分が持っていると思っている人のスタンスだ。対話の価値は、相手から違うボールが返ってくることへの驚きにある。

「相手の胸に返せ」というのがキャッチボールの基本だけど、それはキャッチボールの基礎訓練だけに限られる。ピッチャーはバッターが思っていないところに投げるから三振が取れる。着地点を考えずに書いているから注意して読み続けて欲しい。

抽象的なキャッチボールで言えば、軟球を投げたはずが、相手から返ってくるのはジャガイモかもしれない。クリームパンであるかもしれない。俺は典型的な言葉を発する人の前にいると、血圧が200くらい下がってしまい、脱力して立っていられなくなる。「すみません、ちょっと横にならせてもらいますよ」と言いたくなる。

昨晩は角田陽一郎さんとトークイベントをしたのだが、タロイモやチーズ蒸しパンを投げ返した。聴いていた数千人のお客さんが、イモとパンが飛び交う風景を見て少しでも楽しんでもらえればいいと思ったから。それがわれわれサービス業の仕事だ。

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水に「ありがとう」というと美味しくなる、と自分が信じている分には構わないんだけど、私が言葉をかけたから相手がいい気分になると決めつけているのは傲慢としか言いようがない。水にしてみたら「毎日、うるせえよ」と思っているかもしれない。それに、水が日本語を理解しているとは限らない。水に国境はないからevianにはフランス語で話しかけるべきかもしれないし、evianで採取される前にはアフリカにいたかもしれない。

水にポジティブな言葉をかける、というトピックへの批判で、こんなのがあった。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。