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花の名前。

「人生の何に重点を置いているか」が、その人の魅力と直結する例をいくつか見てきました。

それを反対に言うと、何をないがしろにしているかということも同時に見えてきます。以前ある人と仕事の打ち合わせをしたのですが、彼はロードバイクでやって来ました。会議中にそのバイクが高価で貴重なものだということは説明されたのですが、それよりも私は彼が植え込みの植物の上に平然と前輪を乗せて停めたことのほうが気になっていました。

「ああ、この人にとってアスファルトと植物は同じなんだな」と感じたのです。会議中に彼がした発言が、天麩羅の衣のようにコーティングされているように思えて、中身であるはずの海老が美味しそうには思えませんでした。

別の人と外国にロケに行きました。彼はごく普通のサラリーマン(変な分け方ですが)で、会議の席ではあまり発言をしない目立たない人でしたが、ヨーロッパでその人は別人のようにアクティブになりました。植物園に行ったときは拙い英語でたくさんの植物について係員に質問をします。かなりの知識があるようで夕食の時に聞いてみると、何よりも植物が好きなのだそうです。翌日一緒に歩いているときに「あの花は何でしょう」と聞くとほとんどの花の名前を答えてくれました。木や花の名前を知っている人は無条件に尊敬してしまいます。

帰国してからの会議で、その人は「あまり話さない目立たない人」に戻っていましたが、私は彼の違った面を見ているのでそれまでとは印象が変わり、彼の中で仕事はそれほど大事ではないのだと知りました。帰り際に声をかけられて一緒にコーヒーを飲みに行くと、おそらく300枚くらいのサービスサイズプリントが入るアルバムを二冊取り出して見せてくれました。そこから二時間近く私には同じ花に見える写真の解説をしてもらい、この人は本当に植物が好きなんだとわかりました。

最近は疎遠になったロードバイクの人のFacebookを久しぶりに見てみたら、ウクライナやパレスチナの件で「どこの株を買ったら儲かるか」という持論を展開していました。変わらないなと思い、植物の人のページを見ると、毎日通勤途中に見かけた何でもない草むらの写真をずっとアップしていて、こちらも変わらないなあと思った、そんな今日の夜です。


多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。