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向かいの部屋:Anizine

ひとり暮らしの部屋。引っ越してきて数日が経った。

このフロアには4つの部屋がある。僕の部屋はA。

BとC、ふたつの部屋には挨拶にいき、住人と会った。向かいの部屋「D」だけがずっと留守なのか、インターホンを押しても返事がない。

深夜、コンビニに行こうと思ってドアを開けると、「D」のドアの奥からガチャリと音がした。開けようとしたがやめたような音。エレベーターを待つ間、様子を見ていたが人が出てくる気配はない。

翌日の夜、また同じことが起きた。僕がドアを開けるタイミングで向こうのドアが閉まる音がする。その夜に何度か試してみたが、毎回ドアの音がする。なんとなく気持ちが悪くなってきた。

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しばらくして、掃除をしていた管理人のおじさんに会ったので、向かいの住人のことを聞いてみることにした。

「え、Dの部屋ですか」

管理人さんは不思議そうな顔で言う。

「そうです。まだ引っ越しの挨拶もできていないので」

「あの部屋はもうずっと空き部屋ですよ」

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。