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癌と壷と、知性の沸点:Anizine

「なぜそんなに簡単に納得するんだろう」と思う。

ビジネスでも医療でも教育でもよく似ているが、みんな「こうすれば劇的に解決する」という情報を結論ありきで探している。自分が無意識に仕込んでいるバイアスに気づかずに書店で本を「発見して」ホッとしているのだ。『癌が一瞬で治る!』『英語は3日で話せる!』はずがないだろう。そこで起きるのは誰かが書いた本が売れるという結果だけ。もちろん癌は一瞬で治ることはないし、英語が話せるようにならなくても筆者はまったく責任をとってくれない。

人々の足元を見る商売や言説はどうかと思うし、それらに飛びついてしまう人は「最小の努力で藁をもつかみたい意識」を再確認する必要があると思う。社会は劇的に何かが改善するほど単純ではない。ひとつのことが無限とも言える相関をもって影響し合うから、その問題が単独でクリアになることはないのだ。

では、なぜ簡単に納得してしまうんだろうか。

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遡っていくと、幼少期の教育がある。こう答えるべきだという誘導が含まれた穴埋め問題を日々解かされ、その技術が向上するたびに自分で考える能力は削られていく。大人にとっては疑問を持たない子供の方が扱いやすいし、自分たちの利益になるからだ。「知性の沸点」を低く設定されてしまうと、つまらない感動話やお手軽なロジックに簡単に感動し、騙される。

どんなことにも疑い深くあれ、という学問の出発点がある。小学校のときの記憶だけど、ある理科の実験をした。何かの溶液に何かを注ぐと綺麗な結晶ができるのに感激した(何か、とばかり言って憶えていないのは実験が身につかなかった証拠でもあるけど)。俺は数日後の理科の実験室で、ある暴挙に出た。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。