救急車を待つより:Anizine
住宅地の大通りに面した高級レストラン。ゆったりとした食事を終えたふたりの男性が、デザートのあとの珈琲を飲んでいた。
「すみません、電話なので席を外します」
ひとりがスマホを手に店の外に出てしばらくした瞬間、クルマの急ブレーキの音が聞こえた。窓から見ていた連れの男が慌てて外に飛び出す。
「石井さん、大丈夫ですか」
道路に倒れている客を見て、レストランの若い女性店員が呆然としている。
「店員さん、この近くに病院はありますか」
「はい、すぐその先に日赤病院があります」
男性は青ざめた顔でクルマから降りてきたドライバーに言う。
「救急車を待つより、車に乗せて運んだ方がいい。行きましょう」
後部座席にぐったりした男性を乗せ、連れの男性は助手席に乗り込む。クルマは病院の方へ走っていった。
騒ぎを聞きつけたシェフが女性店員のおびえた顔を見てこう言った。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。