恋愛小説でしょうか。:博士の普通の愛情
「ねえ、今まで読んだ恋愛小説で一番好きなのって、何」
「そう言われると困るな。俺はあまり読んでないから」
「あたしは決まってる」
「えっちゃん、決まってるなら教えてよ」
「あとで言うから、ちゃんと思い出す努力してよ」
俺はやってはいけない方法だけど、えっちゃんにバレないようにスマホで「恋愛小説ランキング」を検索してみた。「ロミオとジュリエット」を筆頭に古今の名作が出てきた。最近特に思うんだけど、何かを一から思い出すことができなくなっている。ヒントが欲しいのだ。
次々にあらわれる小説のタイトルを読んでいると、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』などが出てきた。他にもあれは恋愛の話だったのか、というようなものがいくつもあった。
「俺は『マディソン郡の橋』かな」
「ベタだけど、悪いチョイスじゃないね」
「ほら、そうやって上から言うから教えたくないんだよな」
「ユウジも、ああいう恋愛に憧れるわけ」
「あれはどっちかというと男は空気みたいな存在じゃん」
「まあ、女性が主人公だよね」
「えっちゃんはどうなの」
「すごく憧れる」
「平気でそういうこと言うよね」
「フィクションだからに決まってるでしょ」
「まあいいや。えっちゃんの好きなやつを教えてよ」
「いいよ」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。