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大きい魚と小さい魚:Anizine

あの監督の映画、観たことある?
あの作家の小説、読んだことある?
あのミュージシャンの曲、聴いたことある?

人がたくさん集まって何かの話をしているときに、その場からそっと離れていく人がいる。今のような質問をされたからだ。観たことのない映画や読んだことのない本、聴いたことのない曲について、人は何も語ることができない。

「ああ、あの映画は面白かったよね」という共感でもいいし、「僕はまったく面白いとは思わなかったな」という意見の対立でも構わない。それを知っているから議論ができる。映画も小説も音楽も「体験するコンテンツ」だから、互いに感想を話すのは楽しいに決まっているのだ。

話の輪をそっと抜け出した人が、次に呼ばれることはない。体験した感想を言い合いたい場所から「体験していない人」を締め出すのは、仲間はずれじゃなくて、呼んでもその人には興味がないだろうと思われてしまうからだ。

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ディズニーランドに一度も行ったことがない人を「ディズニーランドの魅力を語る会 at ホテル・オークラ」という集いには誘わないだろう。つまり、あらゆるジャンルにおいて体験が少ないと、参加できる世界の領域が狭くなるのだ。

面白いのはそこに「ホテル・オークラマニア」が来てもいいってことで、ディズニーの集いには興味がないけどオークラでアフタヌーンティがしたいという人が参加してきたりする。これだってズレてはいるが立派な体験への好奇心と言っていい。興味やカツラはズレていた方が断然、面白いのだ。

ここまでは話せばわかると思う。理解に苦しむのは、この先。

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524字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。