ゼロカドの人物:Anizine(無料記事)
「世の中の99.99%の人って、何も成し遂げないままに死ぬじゃん」
「午前中からその始まり方かよ」
「だから、何かがうまくいかないと悩むことなんか無意味だと思う」
「それはわかってるけど、身も蓋もないな」
「それなのになぜか、自分はヒトカドの人物だと思いたがるんだよね」
「ああ、確かにそれはある。中小企業の社長とかな」
「ソーシャルメディアを見ていると、一番面倒くさい発言をするのがそういうおっさんなんだよね」
「わかる。まるでマイクロソフトのCEOみたいな発言をするよね」
「うん。だからさ、知った風なことを言うなら『私は何も成し遂げずに死にますが、』をつけて話すべきなんだよ」
「毎回か」
「毎回だ。『私は何も成し遂げずに死にますが、ミラノサンドAとアイスコーヒーをください』と謙虚に言うべきなんだ」
「そうすれば店員なんかに横柄な態度を取らないようになるかもね」
「そうなんだ。その前段を忘れて話すから偉そうになる」
「全然、ヒトカドじゃないのに」
「ゼロカドのくせにな」
「俺たちも若い頃は『あんな大人になりたくない』って思ってただろう。それが今じゃこの有様だよ。クソジジイだ」
「ちゃんと時間が経つと熟成されてクソジジイになるんだよね」
「なる。抗えない」
「クソジジイにならない方法ってないのかな」
「ないに決まってるだろう。ゼロカドのまま死んでいくんだよ。上等だ」
「0.01%の、成し遂げた人から見ると俺たちはクソみたいに見えるんだろうな。悔しいなあ」
「お前に悔しがる資格なんてないよ。何の努力もしてないんだから。飯食って寝てただけだろう」
「それはそうなんだけどさ」
「ヒトカドの人の視界にも入っていないのに、スポーツ選手に『あのくらいの球なら俺にも投げられそう』とか、ミュージシャンに『つまんない曲だな』とか言うんだ」
「匿名で色々言うよな」
「暗黒で真空の宇宙に向かって叫んでいるようなものだよ」
「午前中からやる気がなくなった」
「そろそろ結論、いくか」
「世界的な大企業のCEOみたいに言うな、店員には横柄にするな、ゼロカドはアボカドとは無関係、匿名で言うな、って感じかな」
「収まったね」
「収まった」
定期購読マガジン「Anizine」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。