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長男と次男は別の人間:PDLB

あるブランディングディレクターという人のセミナーをYoutubeで見た。

役に立ちそうな話、そうではない話を分けてメモしようと準備していたノートの見開きページは「マイナス」の方だけが、書き込みで一杯になった。

その人は(差し障りがあるから職種は変えるが)、たとえば長年コンビニに勤めていたとしよう。コンビニの現状や問題点は具体的にわかっている、と言う。しかしそれは、売り場で働いていた一店長の感覚であり、全国のフランチャイズ経営をしている本部の考えについて知ることはできない。

ここでポイントはふたつ。

「現場の意見はとても大事だ」と思い込み過ぎることの危険さ。末端の売り場が一番顧客に密接だからそれがすべてを決める、と信じて疑わない態度だ。もちろん販売においてはそれはとても大切だし、成功するブランディングにおいて最初に顧客が感じる「劇的な変化」はここにあらわれる。しかし、その発想とオペレーションの体系的な戦略は、店員に作ることはできない。

ひとつずつの店には地域性や顧客層の違いがあり、それを広域で揃えていくためにはフラットな全体像を見なくてはいけない。その像は、ある時には「ひとつの店のちいさな理想像」とは矛盾するかもしれないが、全体を生かすために矛盾を知りながら判断すべきこともある。その葛藤を販売員である個人は理解できない。

もうひとつは、自分たち以外の実例を参考にしようとして各方面から情報収集をするあまり、自らの理想像を見失うことだ。企業や個人には持っている「サイズ」がある。年商や時価総額なども関係してくるが、重要なのは、今どのポジションにて、将来どの場所に立っていたいか、である。

この客観的な立脚点を見失ってしまうと、むしろブランディングは逆結果をもたらすことにもなる。

ある巨大企業の新サービスのCMを相談されたことがある。会議室で世界的なホテルグループのリールを見せられ、宣伝・広報責任者から「こういうものを作ることに決めた」と言われた。提示された予算は、実際にそれを作るとしたらかかるであろう制作費(媒体費除く)の1/20にすら届かなかった。

つまり、国を超えてまで認知されているグローバル・ブランドの宣伝・広報戦略がそれほどのスケールなのか、を実際に知らないということだ。「本当にそのレベルのものを作りたいのだとしたら、その金額では到底不可能です」と言ってその仕事は断ったが、担当者はただ知らないのだから仕方がない。社内で割り振られた予算の中でやろうとしただけだろう。

ここでわかるのは、何かを消費者として見ることは誰にでもできるということ。しかし、それがどうやって世の中に生み出されているのかはわからない。それがさっきの販売員の例だ。コンビニの店長として客を上手にさばくことと、年間を通した商品開発やマス・キャンペーンをどう動かしていくかとは大きく違う役割だ。

専門職がやっていることを自分も同じようにできる、と言い張る人には、わかりやすく「漢字は読めるが、その3割も書けないでしょう」と説明することにしている。

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最初に言ったブランディングディレクターは、現場の重要性を説く前者のタイプだった。精神論が多く、お客様の幸福のために、という聞こえのいい言葉はいいのだが、何ら具体的な説得力がなかった。しかしセミナー会場では中小企業や個人経営者と見られる人たちが熱心にメモを取っているようだった。

そこで気になったことがある。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。