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眠る写真。F

私の会社がコロラド州デンバーに営業所を出すことになりました。
そのオープン記念イベント担当を命じられたのです。デンバーの旅行ガイドブックを買って読み始めたのですが、私は英語がまったく駄目で、妻に相談したところ「妹に英語を習えば」と言われました。

妻の妹、エリコは英国に4年ほどの留学経験があり、現在は貿易会社に勤めています。3歳の娘がいる、化粧っ気のないごく平凡な主婦です。

ある日曜日、近所に住むエリコの家に行きました。
「義兄さん、こんな英語もわからないの」などと言われながら、中学生レベルの英語にすら苦戦。エリコの旦那も英語はできないようで「おい、義兄さんにあまり厳しく言うなよ」と言ってくれました。

姉妹の亭主同士という、普通ならぎくしゃくしそうな関係ですが彼はとても優しくて気さくです。どちらかというとエリコの方が、私と旦那の関係に気を遣っているように見えました。レッスンが終わって、彼らとランチのテーブルを囲んだりと楽しい休日になりました。こんな調子で英語ができるようになるかはわかりませんが。

レッスンをしばらく続けているうちに、自分の中にある変化が生まれました。

今まで義妹のことは、エリコちゃんと呼んでいたのですが、英語のレッスンで会話を演じる時は「ハーイ、エリ」となるので、エリと呼ぶようになったのです。彼女は私、健一郎のことをケンと呼びます。

親戚の法事で私たちがたまたま二人だけになって「エリ」「ケン」と互いに呼び合っていると、妻が不機嫌な顔をしたのです。これは女性の嫉妬なのでしょうか。それまで何とも思っていなかった私は、妻の態度をきっかけにエリを意識するようになり、彼女の家での毎週のレッスンが、高校生がガールフレンドの家に遊びに行くような、ちょっと甘酸っぱいものに変わっていったのです。

レッスンは毎週土曜か日曜の午後にやっていましたが、エリが地域コミュニティの役員になり、休日の都合が悪くなったので、平日の夜にシフトしました。それまでは旦那も一緒にいることが多かったのですが、平日は帰宅が遅いので、私とエリだけになることが増えました(子供はもう寝ている時間です)。

夏のある日、エリが黄色いタンクトップであらわれました。どうやら風呂上がりのようです。教科書を読む時にかがむとエリの胸の谷間がのぞきそうになり、見ないようにするのが大変でした。とてもいい石けんの香りがすることもあり、一度もエリの姿を見ることができませんでした。

私は「教科書は置いていくので、そのページをスマホで写真に撮っておきたい」と言い、エリに教科書を持たせて写真を撮りました。もちろんそんなのはウソです。私はエリが手に持った教科書ではなく、タンクトップ越しの胸の膨らみあたりを撮ったのです。ポケットの中でスマホを握りしめ、心臓がドキドキしてたまりませんでした。

家に帰りスマホを開くと、驚いたことに黄色いタンクトップ越しの膨らみどころか、小さな乳首がポツンと出っ張って写っているのがハッキリとわかりました。私は妻に隠れてその写真をパソコンにコピーすると、スマホから消去し、パソコンを開くたび、その画像を飽きもせず眺めるようになりました。しかし、これがあとで大変な事態を引き起こすことを、まだ私は知りませんでした。

エリの家に毎週行くようになると、彼女の生活パターンがだいたいわかるようになりました。娘に夕飯を食べさせ、風呂に入れ寝かしつけてから自分も風呂に入ります。私はそれほど残業もなかったので時間はどのようにも調整できました。エリが子供を風呂に入れている時間を見計らって家に行き、しばらく一人で待つようにしたのです。

私には子供の頃からコレクション癖があるので、エリのすべてを蒐集したくなりました。エリと娘が風呂に入っている間、夫婦の寝室に忍び込みます。そこには彼女のワンピースやパジャマやTシャツなどがかかっているので、それらを昆虫標本のように1枚ずつ撮影しました。

コレクションとは不条理な所有欲です。周辺にある無意味でバラバラなパーツをすべて手に入れることで、手に入らないはずの本体も所有した気分になるものです。私は何回かエリの目を盗んでそれを繰り返し、彼女の靴や服、化粧品、タンスの中の下着にいたるまでのコレクションを完成させました。

子供を風呂に入れている間は音に注意していれば大丈夫でしたし、そのくらいの時間に旦那が帰ってくることはまずなかったので、安心してコレクションができました。

一通りそれが終わると、今度は風呂場に近い洗濯機の中の下着に挑戦してみたくなりました。きれいに洗濯されたものではなく、エリの体臭や痕跡が感じられるものを、です。危険でしたが、いくつかのお気に入りのパンティとブラジャーを撮影することができました。もちろん実物を持ち帰りたい欲求もありましたが、

この残酷な結末は定期購読マガジン「博士の普通の愛情」で。
https://note.mu/aniwatanabe/n/n210c2e40653d

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。