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何の肉ですか:Anizine

友人宅でホームパーティがあった。

友人の奥さんは、たまにテレビに出たりレシピ本を出したりしている料理研究家なので、そのパーティがあると俺たちは喜んで出かけていった。友人である旦那の方は不動産会社に勤めている。彼は国内外問わず各方面に顔が広く、パーティに多くの人を呼ぶのは仕事のようなものでもあると言っていた。

その日もたくさんの料理が大きなテーブルに所狭しと並んでいた。俺は旅行代理店勤務のMくんと話していた。Mくんが、「あるアジアの国で土地が高騰しており、不動産投資なら今はそこが一番いい」と言う。その話を聞きつけて旦那が興味を持ったようだ。

近代化やIT化が急激に進み、都市部の不動産がどんどん上がっているというのだがあまり馴染みがない国なのでまだ日本では目を付けている人が少ないのだそうだ。

「そうだ、さっき会った彼を呼んでくる」

旦那はひとりの若い男性を連れてきた。偶然にもその国から来ているらしかった。Mくんが言っていた話は本当かと聞いてみると、彼は「本当です。僕の弟は最近結婚してアパートを買いました。かなり無理をしたようなんですが、それが半年後に三倍で買い手がついたのです」と言う。

「へえ、本当なんだ」

「はい。弟はすぐに大きな一軒家に買い換えましたが、たぶんまた半年後には数倍になっていると思います」

俺たちは驚いて目を丸くした。悪い言い方だけど、その国の印象は辺境の、まだまだ発展途上国だったからだ。

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奥さんが俺たちを呼びに来た。

「これ、彼の国の料理なんだって。持ってきてくれたから皆で食べましょう」と言った。一見すると鴨のコンフィのようにも見えるが、やや強めのハーブの香りがした。

「これは私の国では、お母さんの味なのです。美味しいですよ」

旦那はやや興奮気味に「近いうちに不動産を視察に行く」と言いながら、その国の料理を食べ始め、俺たちも食べてみることにした。旦那、Mくん、俺の三人は、何と感想を言えばいいのか表現に困る味だ、と、お互いの顔を見つめていた。彼を傷つけてはいけないし、そして決して不味くはないのだ。ただ、調味料も肉そのものも、過去に食べたことがない味だった。

「うーん、これは何というか、美味しいけど、不思議というか」

「そうだな。パクチーみたいな香りもするけど違うよな」

「とにかく、食べたことがない肉だ」

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。