見出し画像

中年のクライシス:Anizine

平林監督の「中年がいかに惑っているか」という種類のポストを読むたびに、ああ、わかる、と思ってしまいます。私よりかなり先輩である孔子という講師は、人は40歳を過ぎたら惑うことがなくなる、もしくは惑わないようにしなければと書き、ロバート・ロンゴも確か似たようなことを言っていた気がします。

中年のクライシスは誰にでも訪れます。「私は若い頃から頑張ってきたつもりだが、ある程度の年齢になった現在がこれか」と、来た道を振り返るのです。ひとたびその評価をしてしまうと恐ろしい人生反省会が始まります。一番怖いのはいっさい嘘がつけないことで、たとえ他人がいい評価をしてくれることがあったとしても、本人は自分の欠点に気づいているからです。

さらに言うと、中年の危機は誰もがカサブタを剥がすような痛いけど気持ちいいような自虐の快楽も含んでいます。諦念もしくは開き直りと言えるでしょうか。「この歳でこれなんだから、もうどうでもいいか。ビールおかわり」と、邪念が消えていくんですね。テニスが上手な小学生は100%の可能性を持っていますから「将来はウィンブルドンに出場したい」と宣言する権利があります。でも40歳を過ぎてどうにもならなかった人は全部を諦められる。近所のテニスクラブに行くのが面倒だからタクシーに乗るような中年は、もう絶対にウィンブルドンには行けません。

何者にもなれなかった我々クソ中年は、何も成し遂げられなかった『なれの果て』という姿を肯定して楽しむしかありません。そしてそれは何も悪いことではないのです。さてこれから大事なことを書きますよ。

ここから先は

953字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。