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存在しなかった日:Anizine

Parisの友人から「毎年来る人が来ないと季節感がなくなる」というメッセージをもらった。仕事で4月と11月はロケに行っていたので、Facebookの「去年の今日」でも今の時期は、必ずParisにいる写真が出てくる。

去年か一昨年だったか。仕事ではなく遊びでParisに行ったときのこと。毎日何をするでもなく、近所を散歩したり友人と会ってカフェやレストランに行くだけの日々を過ごしていた。出先ではその日に撮った写真を夜中にパソコンに保存して、HDDにもコピーするのが日課だ。

日付の書かれた写真フォルダが日数分だけ作られ、東京に帰ってからそれを見直す。仕事場のバックアップ用HDDにそれをコピーしていたら、一日分がなくなっているのに気づいた。仕事ではありえないことだし今までに一度もそんなことはなかったんだけど、遊びだったのでもしかして気が抜けていたのかもしれない。

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「サルトルは『日記がない日は、存在しなかったのと同じだ』という意味のことを言っていたよ」と、20代のときに日記大魔神であるアートディレクターの浅葉克己さんに教えてもらった。ヨーロッパにご一緒した時、食事の時であろうといつもメモを取っていた姿を思い出す。

Parisで写真のデータが抜けていた日は、ホテルで何もせずに一日中寝ていた日だったことを思い出した。東京ではありえない「存在しなかった一日の過ごし方」だけど、わざわざ遠くまで行って何もせずに寝ているというのも悪くない。「データをなくしたわけじゃなかったんだ」とホッとした。

どこかに行って何もしない。元を取ろうとか、コスパなんて気持ちの悪い言葉を頭に浮かべなくても済む。コストはパフォーマンスなどしなくていいのだ。そんなことを考えていたら、コスト兄弟の店になど行けない。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。