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荒野の白い紙:Anizine

白い紙を一枚渡されて、何か好きなモノを描いて、というと困る人がいます。これってどういうことかわかりますか。順番が違うのです。

何かを表現したい人は「白い紙が目の前に置かれるのを待っている」のですが、紙が置かれてから悩む人は「待っていない人」です。とても簡単なことを言っているようですが、実は極めて重要で残酷な判断基準です。

私たちは美術の時間に画用紙を渡されて、さあ、ここにあるリンゴを描け、と先生に言われます。みんなが思い思いにリンゴを描き、上手だとか下手だとか言い合います。これはいいんです。バスケットのボールを渡されたら誰でもゴールリングに向かってシュートするのと同じことですから。

しかし目的を設定されていない、りんごやゴールリングがない荒野のような場所では何もできなくなってしまう。それが、悩む人です。その人たちがなぜ悩むかというと、悩まない人になりたかったり、自分は悩まない人であるはずだという勘違いをしているからです。

課題やヒントを与えられてそれに答える習慣を身につけてしまうと、目的がないことをするのが不可能になってしまいます。何かを表現したい人は自分が持っているものをどこかにぶつけたくて待っていますから、紙が出てくれば即座に描くことができます。でも、「徳川初代将軍は誰でしょう」というスタイルの問題に慣れている人は、真っ白い紙を見つめて何もできなくなってしまいます。そこに答えるべき問題が書かれていないからです。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。