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テレビの存在:Anizine(無料記事)

正直に言うと、テレビを見るのは年に数回。ホテルに泊まったときくらいだ。テレビの仕事をしている友人が多くいるどころか自分もテレビの仕事をしているけど、家にも仕事場にもテレビがない。

それはテレビを見ている人はカッコ悪いとかいう、存在の否定ではない。

テレビの「全部」を受け入れる必要がないということだ。インターネットがあらわれてから自分でコンテンツをチョイスするという行動様式が生まれた。検索でもソーシャルメディアでも、「自分が求めるモノを選ぶ」という当たり前のことが以前はなかったから、地域で数局しかない電波だけを家にある受像機は受信していた。朝から晩までだらだらと見続けても、そこにある情報は記者クラブのシステムを見てもわかるように、どの局でもほぼ同じだ。

俺たちがこどもの頃はクラスの全員が欽ちゃんやドリフの番組を見ていたということに今更ながら驚く。もちろんその共有感覚にある種の楽しさはあったんだけど、当時インターネットがあったらどうだったんだろう、と今のデジタルネイティブなこどもを見ながら思う。自分が好きなモノを見て、嫌いなモノや興味がないコンテンツには接触しない。それが凶と出るか吉と出るかは、時間が経たないとわからないが。

理想を言えばテレビの番組は24時間、すべての局のすべての番組がアーカイブを一元管理し、ネットで配信されて欲しいと思っている。せっかく作ったテレビ番組が局の垣根を越えていつでも見られるようにして欲しいのだ。AmazonやNetflixなどのサブスクリプションサービスはまだまだコンテンツが少ないとは思うが、見逃した映画や今までは知らなかった外国の番組を見ることができる。俺は日常的に垂れ流しのようにテレビを見ていないから、上質なテレビ番組の情報はネットから入ってくる。週刊漫画雑誌での連載を毎週読むのではなく、気になった漫画が完結してから単行本でまとめて読むような感覚に近い。

数年前に『代償』というドラマが面白いよ、と人から聞いた。伊岡瞬さんの原作で「Hulu」で流れていたのを見たのがサブスクリプションで連続ドラマに触れた最初の体験だった。あまりに面白かったのでTwitterなどで人に薦めていたら、そこから伊岡さんや他の制作スタッフの人たちと知り合うことになった。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出さんとの出会いも似ていて、やはりいい番組を作っている人から発するオーラのようなモノはテレビという枠を超えてこちらに届くものだと知った。だから権利を囲い込んだ各テレビ局の配信コンテンツサービスだけでは補えないと思う。

映画もそうだ。好きな映画のことを言っているとそこから世界が広がる。当たり前だけど、批判することからは何も生まれない。「僕はこれが嫌いだ」と言う自由はあるんだけど、映画を人間に置き換えてみると、「あなたが嫌いだ」という見ず知らずの人と積極的に関わりたい人などいないはず。映画という人間が生まれるためには複数の親がいる。自分のこどものことを貶す人をどう思うか。繰り返すけど、批評は勝手にすればいい。でも生理的に嫌いだとかムカつくと言われても制作者が次回作に生かせる部分は何もない。

好きなコンテンツをお世辞や利害関係ではなく褒めることは、同じ感覚を持った人を探すこととも近い。制作者としてファンとして、あらゆる立場で楽しめる感覚が似た人との出会いはうれしい。『バーフバリ』『カメラを止めるな!』などは、この映画が好きな人とは一緒に楽しめるというファンコミュニティのムーブメントが起きた珍しい例だったと思う。それを見てもわかるように、ただただ「貶すことの無意味さ」を思う。

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昨日最終話が配信された『前科者』も素晴らしかった。コンパクトな全6話のドラマだけど、演技も脚本も演出も完璧だ。制作者を調べてみると俺が好きな映画である『あゝ、荒野』『宮本から君へ』などの名前が出てくる。そういうことなのだ。

仕事をさせてもらった番組で言えば幸運にも大好きな脚本家である坂元裕二さん脚本の『anone』などがあるし、『シェフは名探偵』の仕事も楽しかった。まだ表に出ていないものもある。いろいろ困難な状況がありながらも真剣にテレビ番組を提供し続ける人たちがいるから、一方では芸能人の不倫ばかり扱っている番組があろうとも、「テレビってスゴいなあ」と思うのだ。

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