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『地球を31周』その2:Anizine

前回「若い頃には外国に興味がなかった」と書きましたが、20歳くらいのときにNYに行く計画を立てたことがあります。当時つきあっていた女性とビリー・ジョエルやウディ・アレンやジョン・レノンの話をしているうちに、旅行するならNYだと盛り上がって決めたのですが、直前になって彼女の両親に危険だからと反対されて断念しました。その経験がトラウマになっていたのかもしれません。彼女の両親は保守的な人たちで、娘とは公務員のような人としか交際を認めないと言っていたそうです。そんなことがあってから数年して初めてNYのJFK空港に降り立ったときにはたくさんのことを思い出し、頭の中には「New York State of Mind」が流れていました。

会社に入ってから数年後、ある仕事で初めての海外ロケに行くことになりました。ビジネスマン向けの商品でクリエイティブディレクターからは、「NYを感じさせるビジュアルを考えろ」と言われていました。商品の背景にNYのビジネスマンや風景などがあればいいという単純なプランだったのですが、ストック写真と商品との合成はやりたくないと思ったので、商品を持って行ってNYでロケをする企画をプレゼンテーションしました。「それって合成じゃだめなのか」という意見を突破する複雑な撮影方法を提示して、何とかNYに行くことに。今だったら確実に合成になると思います。これも時代の違いですが、当時は合成の技術が今ほど高度ではなかったことと、全体的に予算に余裕があったことがラッキーでした。

二度目の外国で、さらに自分がアートディレクターとしての初めての海外ロケ。緊張を感じる方法も知らないことが幸運だったくらい何もわかりませんでした。英語はまったくできないしアメリカのことも何も知らない。一緒に行った先輩カメラマンとそのアシスタントは一年の半分くらいは外国にいるようなペースでロケをしていましたから、俺はアートディレクターという立場でありながら足手まといなド素人ムードを全身からカモシ出していました。前回は韓国だったので長距離フライトも初体験でした。CAがとても雑な発音で「チェケベー、チェケベー」と話しかけてきます。何を言ってるのでしょうか。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。