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たいせつなもの:Anizine

たいせつに思っているものは、たいせつに思うことで傷つく不幸があります。O・ヘンリーの『賢者の贈り物』のように、お互いを思ったからこそ両方が大事なものを失う事態が起きるのです。聖書を題材にしたあの話はハッピーエンドでしたが、男性が懐中時計を手放し、女性が髪を売った、取り返しのつかない行き違いの結果だけで終わってしまうことも実際にはたくさんあります。

誰でも後悔することはいくつかあると思いますが、時間は戻りません。よく「あとで後悔するよ」という言葉を聞きます。日本語としては間違っていますが、過去になってしまう悲しさを二度言いたいくらいの切実さも感じます。過去に選んだ分かれ道を悔やむ。そこが人間の弱いところです。

でも、間違えた分岐点に歩いて戻ることができる場合もあります。そのときに必要なのは間違えてしまったことを認める勇気と反省で「正しいと思って選んだのだが、あれは失敗だった」と素直に認められれば、時計の針を逆に進めることができます。道に迷ったときはどんどん進むのではなく、方向がわかっていた場所まで戻るのが最善だと言われますが、歩いてきた時間を無駄にしたくないから方向を知らないまま進んで、余計に迷ってしまうのです。

何度でも失敗できるし、何度でも元の道に戻れる。そう思って、お互いが手にしている、相手のためを思って手に入れた失敗の産物である「懐中時計の鎖と鼈甲の櫛」を見て、笑うことができればいいのだと思います。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。