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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2024年1月の記事一覧

教えてくれないこと:写真の部屋

独学で写真を学ぶとき、まったく気づくことができない失敗があります。本の中にも書きましたが、私はそれを「食中毒」と呼んでいます。料理を見よう見まねで作ることは誰にでもできると思いますが、実際にシェフがどうやって食材を処理しているかがわからないと、最悪の場合、食中毒が起きる危険があります。 今日、ある写真講師の作例を見ていて気づいたのですが、おそらくその人は撮影技術を勉強したことがないだろう、とわかりました。その状況を見て「あり得ない」と思ったのですが、そういう食中毒の可能性が

カメラは水平に:写真の部屋

本の中で、差別についての話を書きました。写しているものに憧れたり蔑んだりしないという意味で、撮るときにカメラを水平に構えることの大事さ。 ある写真家が外国に撮影に行った印象を「汚い街だった」と表現しているのを見たことがあり、とても残念な気分になりました。誰かが住んでいる街のことを外から来た人が綺麗だとか汚いと感じることの意味とは。こうして考えてみると実は「綺麗だ」と感じるときにも差別は生まれていることになります。 カメラは撮っている人のことを写している、というのが今回

45km/hのピッチャー:写真の部屋(無料記事)

この本は、スマホでInstagramを始めた25歳のカズトが、ロバートと名乗る写真家のおっさんに出会い、「写真とは何か」という大きな問題の周囲をウロウロしながら成長していく物語です。 写真を撮ることはスマホかデジカメさえあれば誰にでもできます。そして、誰でもできるからこそ起こるできごとに焦点を当てています。私たちはなぜ「できることと仕事にすること」を混同してしまうのでしょうか。主婦は毎日家族の食事を作っています。私も子どもの頃にずっと母親にご飯を作ってもらっていました。尊い

カメラを買う話:写真の部屋

本の中で、主人公が生まれて初めてのカメラを買いに行くシーンがあります。どうやってカメラを選べばいいのかを教えてもらうのですが、そこで「プロフェッショナルは普通、カメラを二台買う」という話をしています。 具体的に言うと私が最近メインで使っているのは SONY なのですが、新しい機種が出ると次々に買い換えています。α7 から始まり、8機種くらいでしょうか。カメラは仕事によって使い分けるので、Hasselblad も併用していますが、私の場合、Leica でできるような仕事はない

それは無謀です:写真の部屋

ソーシャルメディアにはフォロワーという数字がついて回りますが、それは「いくつもある基準のひとつ」として存在しています。どんなものであっても私たちが何かを判断するときに一番大きいものは、人気があるかどうかだと思います。意識的にも無意識でも、長い行列ができている店は美味しいのだろうと想像しますし、マスコミで取り上げられた店、100万部売れた本、などの評価に自分の価値判断が影響されることからは逃れられません。 すると「売れているモノや有名なモノがいいってことじゃないよね」というカ

人を閉じ込める2割:写真の部屋

『カメラは、撮る人を写しているんだ。』の中に、人を閉じ込める、という話を書きました。ポートレートを撮るとき、「会ったその人を自分の手の中にあるカメラに閉じ込めたいかどうか」の判断をする、という話です。 仕事で頼まれたのでないかぎり、その人を「撮るか撮らないか」から写真は始まっています。絵を描く人も小説を書く人も同じだと思いますが、一番大事なのはそれを自分が表現したいか、というところで、目の前にいる人を撮ることもできれば、無視して通り過ぎることもできます。ポートレートは、誰を

本ができた:写真の部屋(無料記事)

先日、「あなたは自分がやりたいこと以外は何もしないタイプだよね」と言われました。わかってはいるのですが、人からキッチリ言われると考えてしまいます。それでいいのだろうかと反省したり、それでいいのだとバカボンのパパみたいに自信を持ったりする繰り返しです。 1月19日、ダイヤモンド社の編集担当、今野さんと『HOTEL TRUNK』でランチ。そこでついに本のカタチになった『カメラは、撮る人を写しているんだ。』を受け取りました。二冊目の本ということもあり、前回は慌ててしまってできなか

ビーチでのロケ:写真の部屋|Anizine

かなり前の夏の話ですが、ある仕事のロケで南の島に行きました。仕事とはいえ、南の島に行くということでスタッフがウキウキしているのがわかりました。現地に夕方に到着して空港の外に出ると、美しいピンクの夕焼けをバックに椰子の木がシルエットで並んでいました。プロデューサーは50代の真面目そうな男性で、ホテルの彼の部屋にスタッフが集まり軽いミーティングをしました。 「リゾート地ではありますが、明日からの撮影はトラブルのないように気を引き締めていきましょう」 と真剣な顔で言います。皆、

写真とデザイン:写真の部屋

写真展に並べるような、完成形としての『写真』がありますが、仕事の場合、アートディレクターにとっては『素材』として見えています。写真展の会場に並んでいても、何かのデザインをほどこしても結果がよくなるものが「いい写真」なのだろうと思います。 レコードジャケットや映画のポスターなどを思い浮かべてもらえるといいのですが、デザインされたことで写真が負けてしまう場合があります。これはよくない例です。かと言って写真を尊重するあまりデザインが邪魔をしないように萎縮するのもよくないです。写真

雨宮まみさん:写真の部屋

この本を読んだある人から「あのお話に出てくる『写真家』って、アニさんのことじゃないですか」と聞かれました。 この本の中の一編には、私がこのポートレートを撮影した日のエピソードが出てきます。 去年のある日、2016年に亡くなった作家、雨宮まみさんの写真を貸して欲しいと出版社から連絡がきました。彼女はもうこの世にはいませんが、これから出版される『40歳がくる!』という書籍に使うとのことでした。モノクロの写真を渡すと、それは表紙に使われていました。 このエッセイは初出時に読ん

書く前に跳べ:写真の部屋

『カメラは、撮る人を写しているんだ。』の宣伝ばかりしていますが、本は初速が大事なのでしばらくお付き合いのほどを。本のカバーの写真を毎回変えるというアクロバティックな方法で、いつも見ている人にも飽きないような工夫はしておりますが。同じものを何度も見せるのが刷り込み効果として正しいのは広告のプロなのでわかっていますが、発信者としての自分が正しいと思うことと、受信者の自分が「ウゼえ」と思うことは同時に考えないといけません。 とはいえ、noteの定期購読マガジン「写真の部屋」の購読

可能性は無限:写真の部屋

写真はこうあるべきとか、こうしてはいけない、という「世界を狭く規定する言説」には耳を貸さなくていいと思っています。可能性は無限ですから、同じ場所で1万人が写真を撮ろうとも、一枚として同じものはありません。 これを写真と呼んでいいかはさておき、カメラで撮ったのですから写真と言えるでしょう。何の加工もしていませんが、フィルムの時代にはあり得なかった「ローリングシャッター歪み」が生み出した写真です。 このように、どんなものでも写真と言えますし、そこに優劣をつけたいならつければい

この本ができるまで

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新年のお年玉:全マガジン

定期購読メンバーの皆様、本年もよろしくお願いいたします。 数年前から毎年、年末年始にしている習慣があります。それは年末の最後に乗ったタクシーと、年始の最初に乗ったタクシーのドライバーにお年玉を渡すことです。自分もサービス業に関わる身ですから、お互いにいい気分で一年の終わりと始まりを迎えられたらいいと思っています。ほんの短い時間の間柄であってもできるだけ気分よく。 お金だけではなく、他人のためにすることに、感謝を期待してはいけません。「自分がしたいからしているのだ」というの