マガジンのカバー画像

写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
¥500 / 月
運営しているクリエイター

2020年9月の記事一覧

カメラが逆です:写真の部屋

写真は、対象物「A」に向けているカメラ「B」を結んだ直線で決まります。これは誰にでもわかりやすいですが、実はその先に自分の存在「C」が写っていることがとても大事なのです。 もっと言ってしまえば、「なぜあなたはこの顔がデカい女の子を撮ろうとしたのか」という、「C」から「B」の短いラインに真実があるとも考えられます。 「B」から「A」のことばかりに気を取られると、何かを見失います。直線は距離が長い方が安定しますから、できれば「C」と「A」は心の距離が遠い方がいいんです。もちろ

ミケランジェロの彫刻刀:写真の部屋

ミケランジェロの彫刻を見た人は「素晴らしい彫刻だ」と言うでしょう。そのときに「どんな彫刻刀を使っているんですか」と質問することがいかに馬鹿げているかはわかると思います。ミケランジェロが自分の彫刻刀のメーカーを優しく教えてくれたとします。では、それを手に入れたあなたは彼と同じ彫刻が生み出せるでしょうか。 新しいカメラとかレンズの性能とか、そういう話を聞きたいんだという人もいるでしょう。でも俺はミケランジェロの彫刻刀にはまったく興味がないので書きません。もちろん使うカメラやレン

楽しさと厳しさの境界線:写真の部屋

どんなジャンルでも同じだと思うんだけど、最初は「楽しい」という衝動で始める。 それを続けていると多くの壁が自然と生まれて、乗り越える必要に迫られることになる。たとえば好きなミュージシャンがいて、彼のように格好良くギターが弾きたいと思った。ギターを買いに行って、見よう見まねで楽しく弾き始めた。こんな誰にでもある始まりに、まず最初の壁があらわれる。 うまくならないのだ。 理由はいくつかある。音楽理論の基礎を知らなかったり、練習をしなかったり、努力しているつもりでもその練習方

選択と断面:写真の部屋

何を選んで撮るか。それが写真のすべてであると言ってもいい。 自分にとっての理想を描く絵とは違って、写真は目の前にある膨大なオブジェクトの中から、撮るモノと撮らないモノを決める作業だ。 「何かを撮る」前には、選択があるはず。そしてそれが写真のほぼすべてを決めるのだとわかっているという人も、もう一度考えてみて欲しい。工場で作られた工業製品は寸分たがわず同じカタチをしているが、自然のモノはそうではない。花は全部違うし、犬もみんな違っている。雨や空は昨日とは違うし、一瞬たりとも同

エンドレス・ゾンビ:写真の部屋(無料記事)

「写真の部屋」を読んでいると友人から言われた。その人は俺の数倍は仕事をしているカメラマンだ。いや数倍は偉そうだな。数十倍か数百倍。 それを聞いて思ったのは、すでに立派な仕事をしているキャリアのある人ほど謙虚に勉強しているってこと。本人に「謙虚」という自覚はないんだと思う。最初から、そしていつまでもそうやって勉強し続けているから優秀なんだと思う。 反対に自己流で、行き当たりばったりなことだけしていると能力は伸びない。ある時「自分の写真を見て欲しい」という鼻息の荒い人からサイ

オーディション:写真の部屋

ケイトウの花が並んでいた。 野に咲く花は、生け花とは違ってカタチを変えることはしないし、できない。だからそのままの状態で一番好きなものを「セレクト」することになる。端から端までじっくりと見て、自分がいいと思ったモノを選ぶ。 これが自然の造形物と、工業製品との違い。 場所も動かせないから、背景との関係も重要だ。