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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2022年2月の記事一覧

藤木さんと斉藤さん:博士の普通の愛情

自由が丘のカフェにいたとき、彼女の目が僕ではなくもっと遠くの人を見ている気がした。何度かそれを繰り返したかと思うとアンは立ち上がり、少し離れた席に座っている男に声をかける。アンと一緒に、男はカフェオレのカップを持って僕らのテーブルにやって来た。誰だ。 「こちら、藤木さん」 アンから話を聞いていた昔の彼氏だった。なぜここに連れてきたのかはわからないが、彼女はとにかく頭がいい人だからこの場がトラブルにはならない確信があるのだろうと思った。 「初めまして。タキです。アンから藤

コインロッカーの義務:博士の普通の愛情

ある骨董の集まりに行った。僕に骨董を教えてくれた人が鎌倉時代の香炉を見せながら言った言葉は、「私はこれを死ぬまで預かるのよ」だった。 名工によって作られたものは、価値のわかる人がある期間だけ自分の手元に預かり、次の時代に大事に手渡すのが義務なのだという。「だから、コレクターというのは自己顕示欲や自慢のために買ってはいけないの」と彼女はちょっと怒ったような顔で言った。白髪の美しい60代の女性だった。 彼女が僕に骨董品を見せてくれるきっかけになったのが、ある著名な収集家が高額

人が「生まれて死ぬ」とは:すべてのマガジン

人が「生まれて、死ぬ」とはどういうことだろうか、と、年齢のせいか、より強く考えるようになった。(何度も書いていることだけど、見出しや書き出しだけを取り上げて感想を言われないように、ここからは4つのいずれかの定期購読メンバーだけに向けて書くことにします)