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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2020年7月の記事一覧

銀の指輪「6」:博士の普通の愛情

「とても嫌な夢を見た」 ベッドから体を起こし、僕は妻に話しかける。彼女はベランダで電話をしていたようだった。 「何て言ったの」 「うん。悪い夢を見たって言った」 「そう。どんな夢だったの」 僕は半分くらい創作の、まあまあ面白い悪夢のあらすじを話した。 「寝る前に変な映画でも観たんじゃないの」 「ああ、それもあるかもね」 数日後の朝、僕らは同じ時間に家を出た。リモートワークはまだ続いているようで、近所の通りも駅も、人が少ない。 「まだ、人が少ないね」 妻は気

銀の指輪「5」:博士の普通の愛情

僕は、ある業界誌を発行する出版社に勤めているが、ここ数ヶ月は出社制限もあり、会社に行くことも少なくなった。僕のいるフロアには50人ほどが働いていて、どうしても会社で作業しなくてはいけない理由がある社員は事前に届けを出す。その日に出社できる人数は各フロア20人まで、と上限が決められていて、あとから出社しようと思っても行けないことになっている。 僕の仕事は普段からフリーランスの編集者と似たようなものだから会社のデスクにフルタイムで座っていることはなく、だから特に変化はない。むし