銀の指輪「6」:博士の普通の愛情
「とても嫌な夢を見た」
ベッドから体を起こし、僕は妻に話しかける。彼女はベランダで電話をしていたようだった。
「何て言ったの」
「うん。悪い夢を見たって言った」
「そう。どんな夢だったの」
僕は半分くらい創作の、まあまあ面白い悪夢のあらすじを話した。
「寝る前に変な映画でも観たんじゃないの」
「ああ、それもあるかもね」
数日後の朝、僕らは同じ時間に家を出た。リモートワークはまだ続いているようで、近所の通りも駅も、人が少ない。
「まだ、人が少ないね」
妻は気分転換に新宿のデパートに行くと言い、僕は銀座に向かうので途中まで同じ電車に乗った。
「僕は8時頃には帰ってる」
僕だけ電車を降りる別れ際にそう言うと、妻は何も言わずに手を振った。走って行く地下鉄。ガラスに向こうにある妻の顔は、僕にどことなく不安を感じさせた。
いつものホテルのカフェにいると、リリーがやって来た。
「ねえ、今日も部屋に来てもいいよ」
「どうしようかな」
「そんなにヒマを持てあました顔して、悩むことないでしょ」
僕らはこの前の部屋に向かった。
「先日はどうもありがとう。片桐さん、また来てくれたんですね」
「私が無理矢理連れてきたんです。先生」
彼らが僕のことを面白がっているのがわかる。競技場にいる中で、僕だけが行われているゲームのルールを教えられていない。ルールどころではない。種目さえ知らないのだ。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。