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ジブリの烙印(東小金井村塾編その4~討議!)

その日、会議室に現れた高畑さんは何かに怒っているなとわかる様子で、席に座らないまま、まずは持っていたビデオテープを、腰をかがめてデッキに差し込んだ。

テレビに映ったのはテレビドラマ『北の国から』の特番だった。
『北の国から』は北海道の大地へ移り住んだ家族の、どこか不器用な生き様を描いたものだ。兄と妹役を演じた子役が評判になり、連続ドラマとして終わった後も、何年かに一度は特番ドラマとして続編が作られ、子役たちはその成長する姿がそのままドラマの見どころにもなっていた。

いま塾の場をかりて録画テープで再生されているその特番ドラマは『北の国から´95秘密』だった。つい先日放映されたばかりのものだった。

再生に選ばれた場面は、成人になった兄(吉岡秀隆)が若い女性(宮沢りえ)と交際しようとしているところだった。しかし兄の親友が言いにくそうに伝えたのは、その女性が過去にアダルトビデオに出ていたという情報だった。兄は抑えきれずにそのビデオを観てしまう。そして恋人と森の中を散歩しながら事の真相をさりげなく聞くが、恋人が訥々と語るのは、断り切れず一枚一枚服を脱いでいった様子だったが、兄はその告白に耐え切れず女の話をさえぎってしまうのだった。


「どうでしょう。どうも私にはこの若い女性が、促されるままに服を脱ぐという展開が、腑に落ちぬのですね。ちょっと私にはリアリティに欠けてみえるのです。こんな簡単に、いまの若い女性は身を許してしまうものなのでしょうか。そこが私には解せなかった。みなさんは、いまビデオを観てどう思いましたか」
高畑さんは腕組みして白けた調子で、背もたれにもたれて言っているが、それがいかに深い怒りを抑えての身振りであるか、塾生の皆は疾うに感じ取っていた。だから口火を切るのは誰かとしばらく沈黙が訪れた。

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