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『話の話』を記述する(13~2層の大気)

 カメラは彼らの縄跳びの様子にズームしながら、ある瞬間、ふいっと左方向に視点を移していく。若干ズームを続けながらの左方向への視点移動である。

 このとき見る者が画面の空間を把握しようとするとき、不思議な幻惑感にとらわれないだろうか。
 画面の底辺には横に長く土手(ないし水平線)が視点移動に沿って続くが、画面の大半は一瞬のあいだ背景が占める。
 しかしこれは海なのだろうか、大気の様子なのだろうか。
 高畑勲は海だと断じている。論者はなんらかの大気の様子だと断じて記述を進めていこう。

 なににせよただの背景ではなくて、そこにはおぼろな模様の描かれた層が、なぜか2層も重なっている。
 カメラワークはズームしつつ左方向へと視点が移動していて、そのときこの2層が土手の水平線と微妙にずれて運動している。
 その結果独自の移動感覚を見る者は覚える。

 この箇所こそ、水平線と背景の大気2層とがマルチプレーンを使って撮影されて独自の効果を上げている。
 これがマルチプレーンを使っていると判断できると言うには、この瞬間の画面を仔細に記述しないといけない。

 つまりカメラは左に視点を移動しているのだが、それに合わせて水平線と大気の層1とは一定の速度で移動するのだが、その背後の大気の層2はと言うと、その移動のテンポがカメラワークと微妙にずれていて、それに加えて、まるで大気が鼓動するかのように大気の文様が画面の前へ・前へと迫り出してくるのである。
 水平線と大気の層1はカメラに対して一定の距離で安定している(左移動していても)。
 そのとき大気の層2だけがカメラへ不均等な動きで接近しているのである。
 このときカメラの前に存在する層は4つある。

1=背景となる無地の層
2=漸近する大気の層2
3=一定の距離を保ちつつ左移動する大気の層1
4=水平線の層。4つの層が重なりながら、1と3+4に挟まれる形で2の層がカメラへ漸近する。

 だから撮影時、1と3+4の層の間にはある程度の間隔が空いていて、その間を大気の層2だけが上方にいるカメラに向かって近づけて撮影しているのである。
 実際に画面を見れば一目瞭然の効果だが、アニメに詳しくないひとは見逃してしまうかも知れない。だから見逃したひとにも分かるよう、解説・記述するのに努めるのがこの論考である。

(14へつづく)


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