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アニメのてにをは、基礎表現(1の2)~作用と反作用(中編)

さて、ジブリアニメを見ていく上での「てにをは」つまり《アニメの基礎的な表現》を学んでいく講座です。


0.前回のおさらい

最初は『作用と反作用』の話をしています。

おさらいをすれば、アニメーションの見ていくうえで、この『作用と反作用』はとても基本。

ヒトやモノが動くとき、いつでも『力を加える=作用』と『その力に反発する=反作用』が起きます。

たとえば、『歩き』の表現がそうですね。

この『歩きの運動』を図解すると、下のようになります。


それから、モノを持つと、モノそのものがもつ重み=作用とその重みに逆らって持ち上げる=反作用の力が働くわけです。

これも図解すると、以下のようになります。

もっとくわしくは、前回の《前編》をみていただくといいでしょう。


そして前回で予告しておいたとおり、今回はあたらしく《あの場面》を『作用と反作用』の視点から見てみましょう

あの場面。そうです。
ジブリアニメお得意の『飛ぶシーン』です。


1.飛ぶことの作用と反作用

あの『飛ぶシーン』も実は、この『作用と反作用』の原理にもとづいて『飛んで』いるのでした。


まずは『魔女の宅急便』から見てみましょうか。

魔女の修行のため、新天地を見つけ、列車のうえから飛び立とうとするシーンですね。

飛びました。風の力できりもみ飛行します。

ここでヒロインのキキは、2つの『作用と反作用』の原理に従って、飛んでいます。

ひとつめは、『重力という作用』に逆らって飛んでいます。

もうひとつは、風にもまれて、『風という、ふたつめの作用』と闘って飛んでいます。

これがジブリアニメで『飛ぶ』ときに起きる『2つの作用・反作用』です。

その点を気を付けながら、『魔女の宅急便』のつづきを見てみましょう。

列車の視点から離れて、視点は上空からに変わりましたね。
まだ主人公のキキは安定した飛行にはなっていません。重力と風に逆らっています。

かなり安定してきた感じですね。
この『作用と反作用の原理』をきちんと踏んでいるので、ほかのアニメにはなかなか感じ取れない、『飛ぶことのワクワク』がジブリアニメを観ていると感じられるのです。

風や重力ともうまく折り合って飛べてきた感じですね。

カモメたちの存在が、『ああ、飛んでるなあ』というアクセントとして活きていますね。
カモメたちも一羽一羽、『作用と反作用の原理』にしたがって、動きをちゃんとつけられています。飛ぶ表現にかけては、手抜きはなしです。

素晴らしいですね。

そんな『飛ぶことのできる』キキのあこがれる少年がトンボです。
キキが飛び立つのを発見して、必死で坂道を自転車で漕いでのぼっていきます。

でも『作用と反作用』という視点で見ると、キキとトンボは大差ない存在なのです。
キキが重力という作用に逆らって飛ぶように、トンボも自転車のペダルにかかる『重力』に逆らって、坂道で重くなっているペダルを『反作用の力で踏みつけて』自転車でのぼっていくのです。

驚かれるひとも多いと思いますが、キキが飛ぶ行為と、トンボが自転車をこぐ行為は、アニメの『本当らしさ』を表現するために使用される『作用と反作用』の原則に照らすと、まったく同じことをしているのです。

ちなみに言えば、この『作用と反作用の、表現としての共通性』という見方は、実はアニメ業界でも広く浸透していません
そのためにヘタクソな飛ぶ表現があちこちのアニメで確認できます。
その原因のひとつが、この『作用と反作用』の原則をちゃんと身につけないまま絵を描くプロになっているひとが多いからです。

だからこのアニメの表現を説明するこの投稿も、見ることにアマチュアな一般のファンだけでなく、プロのひとにも『もうちょっと、ちゃんとしてくださいよ』というメッセージにもなっているのでした。


2.『風の谷のナウシカ』


次は『風の谷のナウシカ』より。

ここは飛んでいる効果が比較的わかりやすいですね。
上昇する力(作用)で、砂煙があがる(反作用)という形で表現されていますね。

ちなみに上の画像で注目すべきは、構図が『斜め奥方向』に設定されていることですね。ジブリアニメでは、この『斜め奥』の構図を採用することで、『空間の立体性』を表現することがとても多いのです。
でも、これは予告だけです。
また回が進めば、本格的に説明します。

ついでに脱線しておきましょう。
このシーンは、ナウシカの師匠・ユパが王蟲に襲われているところを助けるシーンですね。
ナウシカは見事、王蟲の怒りをといて腐海へと帰します。
そして問題の個所はユバとナウシカの再会シーン。
ここが見事です。

ここは確かに『飛ぶシーン(着陸シーン)』として『作用・反作用』にも注目してもらいたいのですが、『アクションの組み立て方』としてもジブリアニメ出色のシーンなのです。

着陸して・・・

ユパに駆け寄るナウシカ。

抱きつきます。

伝わりましたか?
以下、説明してみます。

3.シームレスなアクション~『ナウシカ』より


このシーンのアクションの躍動感が、静止画だけで伝わりましたかね?
いま起きたことを、図解すると、下のとおりになります。

そうなんです。
①メーヴェから降り立つ
②ユパへ駆け寄る
③ユパへ抱き着く

この3つの動作が、ひとつながりの運動として提示されていたんですね。
この一連のアクションを描き込むのは、なかなか手練れのアニメーターの力が必要なのかな?と思います。
このシーンはもっともっと注目されていいと思います。

この『アニメてにをは』が目指しているのは、ストーリーとかテーマとか《意味的な》見方から一度目を覚まし、画面に展開される《アニメ固有の表現》に注目することでした。

そのとき、ストーリーの起伏とは別に俄然、精彩を帯びて見えてくるシーンがあり、いまの『ナウシカ』のシームレスに3つのアクションがつながる気持ちのよさに気づいてみたりするのです。

『基礎表現~作用と反作用の中編』も長い投稿になってしまいました。
次回は作用と反作用の《後編》ということで、ジブリアニメの《飛ぶシーン》のあれこれを《作用と反作用》という視点から切り取って、終わりにしたいと思います。

《後編)をお楽しみにしてくだされば。


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