正しい画を求めて1⃣ そのテレビ、表示がおかしくない?

モニタやテレビのキャリブレーションに関し、ネットを探せば様々な情報がある。有償のセミナーもあるが、必ずしも十分ではないことも多いばかりか、認識が間違っているものも少なくない。
SDRのHDR化を追求する4K HDR anime channel、表現に本来の力を与えるためのグレーディング技術と校正を扱うgenuine HDR colourの知識と技術を公開することでその現状に一石を投じたい。

ヨドバシカメラのテレビコーナー、いくつもテレビが並んでいるが、表示がどれもバラバラなことに気づくだろう。
明るさも違えば色調も違う。同じ白でも黄色がかったものもあれば青みがかったものもある。

何故だろう?
それは簡単な話で、正しい表示から勝手に明るく、色をきつく表示しているからであり、同時にその表示を全く管理していないだけだ。

では正しい画、とはなんだろう?
当然だが映像には基準となる表示がある。
SDRは放送用としてBT.1886やBT.709が現在も用いられており、ごく一部ではBT.2020, sRGBも存在する。
旧いものではBT.470 system M(NTSC。SMPTE-170M(NTSC)とも呼ぶ), BT.470 system B,G(EBU)やBT.601が挙げられる
※BTはRecommendation ITU-R Broadcasting service(Television)の略。rec.とする場合も多い。

HDRではBT.2100、デジタルシネマ関係としてはSMPTE ST 428-1やSMPTE RP 431-2, EG 432-1等が用いられてる。

これらはガンマ特性やPrimary(RGBの3原色)を定義しているが、輝度まで厳格に定義するのはHDRやデジタルシネマのみで、放送用のSDR規格は実のところ輝度に対する定義は明確には定められていない。
規格としては”使っているテレビの最大輝度と最低輝度”とあるだけのザル規定だ。
ただしそれでは基準として成立しないので、標準としては最低値0.05~0.1、最高値は100cd/m2~120cd/m2程度とするのが一般的であり、それなりにまともなプロダクションであればこういった表示に調整した(とされている)リファレンスを見ながら映像を仕上げている。
余談だがCMYの三色はSecondaryと呼ばれる。校正を行うならば覚えておいてもよいだろう。

現在主流のSDR放送であれば当然BT.709やBT.1886に従うべきであるが、実際のテレビはその規格を無視し、まるで思考が停止したまま300cd/m2以上、P3の色を使用し、いわばHDR化をして表示している状態とも言える例が多い。
SDRで基準となる表示は薄暗く色も地味に見えるので、一般に好まれるようなルックではないのも事実ではある。
故に明るく、色を強調すること自体は否定するものではない、

輝度に関してはSDR規格がザルであるせいで、まだ規格に反するものではないが、少なくとも色は明らかに過剰だ。
このSDR TVが行うHDR化、はメーカーごとにバラバラで、多少マシなところもあれば仕上がりがひどいものもある。映像タイプへの依存も強く、特定の映画では上手く表示しても、スポーツではむちゃくちゃになっている例や、その逆も少なくない。

とはいえ基準が存在するなら簡単なはずだ。それに合わせて表示するよう調整すれば良いだけなのだから。
しかし実際はそのような調整がされることはなく、用意した部品を調整すること無く、部品の性能なりに(過剰な色や明るさで)表示しているのがほとんどだ。
テレビ側にある程度の調整機能、はあるが、きちんと校正を取るという観点では玩具にすら満たないものがほとんどである。
一部の機種ではsRGBやrec.709表示を採用しているものがあり、これらを見ると尊敬にすら値するほどである。(十分に目標の色空間に校正されていれば、だが)

HDRへの対応に関しては更に酷く、メーカーの設計はもう少し勉強をしたほうがいいのでは?とおもう例があまりにも多い。
DellのG3223QがFW更新でHDR表示を大幅に改善したことが記憶に新しいが(2022.08)、4K HDR anime channelとgenuine HDR colourとして本機を評価した際に彩度マップが余りにも稚拙であることを指摘したことに対する対応がきちんと取られていたことは、高く評価したい。
初めからそのように表示すべきであるのは最もだが、不具合は放置することが悪なだけであり、民生機やさほど高価な価格を設定しているわけでないのであれば、必要な対応を取るのであればある程度は容認すべきであろう。
これはすなわち一部業務用を謳い、同等性能のものと比べてボッタクリとしか言えないような価格を設定する場合には、そのような無様な真似は決して許されない、ということでもある。
市販モニタなら5万のものを20万で売ったり、30万で実現出来るもので400万を取るのであれば相応の仕事をしろ、ということだ。それはメーカーの責任であり義務だろう。

これがメーカー、ましてやテレビごとに表示が異なる主な理由だ。同じメーカーであっても、モデルはおろか同じ機種で表示が同じとは限らず、そんな程度の管理で許されるのだから、実に視聴者を見下し小馬鹿にした、楽な商売だと言わざるをえない。

では正しい画で映像を視聴することは出来ないのだろうか。業務用機に数十万も払うことを強要されるか、一部の上手く表示する機種を探すしか無いのだろうか。
そんなことはなく、たとえ表示が正しい画からかけ離れていても、その機体なりに正しい画に近づけることは十分に可能だ。
次の記事では校正とはなにか、その具体的な手法や必要な知識を紹介しよう。

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