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最近の記事

サバルタンを語ることはできるか——映画『37セカンズ』における可変的身体と「移動」の主題

批評という力『イメージ、それでもなお』という本に、一枚の写真が掲載されている。アウシュヴィッツでガス室送りにされた死体が燃やされているところを、仲間がガス室の扉に隠れて撮った写真である。当然ながらアウシュヴィッツにおいて写真を撮影することは不可能に近く、残った写真には歯磨き粉のチューブに詰められて外に出たものもあるという。映し出されている真っ黒なドアの枠からは、そんな状況においても「真実」を伝えようと奮闘したユダヤ人の置かれた状況の悲惨さ、そして覚悟が伝わってくるように思えて

    • 常守朱は完全に無力だったのか?――PSYCHO-PASSにおける音楽性と運命

       PSYCHO-PASS第1期に限って言えば、常守朱は完全に無力だったのかもしれない。作中で肉体的にも精神的にもあれだけ傷ついたにも関わらず、彼女は1期第22話『完璧な世界』での結末を、狡嚙と槙島という二人の男たちの物語を変えることが出来なかった。というより、もはや彼女にはそこに介入する権利すら与えられなかった。ただ彼女に許されたのは、麦畑に響き渡る銃声を耳にして膝から崩れ落ちることのみであった――誰にも届くことのないモノローグを独り言ちながら。「2人は初めて出会うより以前か

      • スクリーンのなかのスクリーン――『ブラック・ミラー』シリーズ「アークエンジェル」における紋中紋構造

        はじめに  自分のことを大切に想ってくれている故だと分かってはいても、保護者に意志と責任を奪われたくないと考えるのは至極当然のことかもしれない。誰もが自分の「本当の人生」を自分の手で操作したいと、たとえ親であろうとその手綱を奪われたくないと願っている。そのような願望は多くの場合少年たちの冒険譚と成長物語として描かれるが、現実がそうそうドラマティックであるわけもない。いわゆる男たちの物語とは違い、「アークエンジェル」という作品が描き出すのは、娘と母親の間の「ささやかな」すれ違

        • あなたも知らない本の帯の背中の世界

          本の帯のよさ本屋で本を眺めているとき、どうしてもその帯が目に留まることがある。「映画化決定!」とか「女子高生に話題!」なんかの謳い文句がデカデカと書かれていて、宣伝に主眼が置かれているつまらないものはごまんとある。そんな中で、デザイナーの本気を感じる面白い/あるいは美しい帯に心を惹かれることがある。例えば本文の印象的な一文が引用されていたり、あるいは訳者の推薦文がそっと添えてあったり、あるいはグッとくるキャッチコピーに心を掴まれる、そういう帯のことである。 この場合の「あた

        サバルタンを語ることはできるか——映画『37セカンズ』における可変的身体と「移動」の主題

        • 常守朱は完全に無力だったのか?――PSYCHO-PASSにおける音楽性と運命

        • スクリーンのなかのスクリーン――『ブラック・ミラー』シリーズ「アークエンジェル」における紋中紋構造

        • あなたも知らない本の帯の背中の世界