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F1小噺【サスペンションの取り付け方法】

今ではあまり話に上がらないフロントサスペンションの「取り付け方法」について、今回はお話しましょう。なんで話題にならないかって言うと、サスペンションの取り付け方法は、ほぼ完成してしまったからなんですね。
って言ってもレギュレーションが変わればサスペンションへの要求なんかも当然変わるんで、影響はあるんですが、取り付け方法をガッツリ変更するってのはしばらく起きていません。

F1のサスペンションの特徴 is 何?

F1のサスペンションはダブルウィッシュボーン式を採用しています。メリットデメリットは話すと長くなるので割愛、さっそく現物を見てみましょう。(一応、乗用車でも採用されることもあるレイアウトです。)

2023年 SF-23 「>型」のアームが上下に付いているのが特徴

今回のお話は「上下の>型のアーム」についてお話します。この>型のアームは「Aアーム」と呼ばれます。形がAに似てるもんね。
上のAアームをアッパーアーム、下をロアアームと呼びます。コレもそのまんまの呼び方ですね。

ペンネーム: Aアームさんからのお悩み相談

私、上下のアームは同じ長さで、かつ平行の状態で生きていきたいんです。そうしないと、私が支えてあげているタイヤ君に負担がかかってしまって…。それなのにF1チームはどこも空力ばかり優先してきたの!
まぁ、近年では随分と理想に近い状態だから、それは満足ね。でも空力の要求に答えていたら、おデブになったのは許せないわ!

少女Aアーム

昔のAアームがどう取り付けられていたか見てみましょう。

1992年 FW14 ロッド細過ぎん?よう折れんわ!

この頃のF1マシンは、まだノーズが地面の近くに配置されていました。なので、ホイールの上下から水平にアームを伸ばしてノーズに接続しています。

相性最悪!?ハイノーズとAアーム

ハイノーズが当たり前になってくるとロアアームの接続部分に困ります。ホイールから水平に伸ばした場所にノーズが無いんです。そこでF1チームが考え出したのが、「キール」と呼ばれる突起物にロアアームを固定する方法です。キールは時代と共に変わっていくのですが、この時代のキールはシングルキールと呼ばれます。

2000年 F1-2000 ノーズ下にある▼の突起物がキール

キールを作ることでAアームを水平に保つことができたのですが、頭痛の種がいくつかあります。
①上下のAアームが等長でなくなった(下が長い)
②キールが邪魔
特に②ですが、空気を取り込むためにノーズを持ち上げたのに、その経路に気流を乱す突起物があるという、何とも本末転倒な状態なんです。

次世代キール

シングルキールの弱点を克服した「ツインキール」が登場します。

2002年 A23 ノーズの横から下に伸びてるスカート
みたいな奴がキールなんです。П←こんな感じ

ノーズの左右にキールを作りそこに接続してやれば、ロアアームは水平で等長に、ノーズ下の流路に阻害物なし!という魔法のようなアイディアです。
しかしコレは流行りませんでした。多分、剛性が低くてサスペンションが働かなかったんじゃないんかな。
それでもたまに登場してくるのでそれなりにメリットはあったんだと思います。

2004年 FW26 青色の短く太い棒がツインキール
というかロッドの上下長に差があり過ぎん?

進化版シングルキール

ツインキールはイマイチ流行りませんでしたが、面白い解決策を見つけたチームがいました。シングルキールのデメリット②だけでも改善しようと登場したのが、Vキールです。
気流を阻害する物体は要らない、でも強度は欲しい。じゃぁどうするか?

2005年 R25 同じ三角形でも▽なんです。

シングルキールを中抜きし、気流を通過させながらもフレーム構造にすることで強度もバッチリ。シンプルな構造ですが、多くを満たす案です。
チャンピオンチームが使用していたという事でなかなかの注目度でした。

脱キール

そもそも、キール自体が癌だと気づき始めました。キールのメリットって何でしょう?上下のAアームを水平に保つことぐらいしかないんですね。キールを採用する事によって上下のAアームは不等長になるし、空力的にも美味しくない。
という事で、キール無しでAアームを配置するゼロキールが出現します。

2012年 F2012 実際は数年前からゼロキールが採用されています。

「ハイノーズ + キールなし」でサスペンションを構成すると、Aアームが「ハの字」になります。
ゼロキールのメリットは何といってもノーズ下に気流を阻害する邪魔者がなくなる事、また、水平ではないですが上下のAアームは等長で平行に配置できる事など、大きな利点があります。
対してデメリットはサスペンションのセッティングが難しい事でしょうか。
ハの字なので、ロッドは強度を求められ(水平の場合、ロッドへの負荷は引っ張られる方向だったので強度は不要だった)、更にはボディ側のAアームの接合部はもう可動しません。ガッチガチに固定されているんです。
そもそもですが、F1のサスペンションって、乗用車に比べて滅茶苦茶硬いんです。F1はそのわずかに動くサスペンションで路面の凹凸の吸収、タイヤの設置面積の管理、車高管理を行っているので、ガッチガチの固定状態だとやっぱり都合が悪いんですよね。

現在のサスペンションのトレンドは?

現在(2024年)は引き続きゼロキールですが、レギュレーションでノーズが下がっているので極端な「ハの字」ではありません。ロッドは肥大化し、極太でタイヤはガッチガチに固められています。
そんな中でも色んな工夫があり、Aアームを斜めに取り付けるのが流行っています。

2024年 W15 アッパーアームの後側が下方についてる

この取り付け方だとタイヤの上下運動が垂直ではなく斜めになるのですが、「斜めに上下する」ことが望ましいなら、ロアアームの前方も上方に配置すれば効果が大きくなるハズです、でもそれはしていない。
ウィングカーになってサスペンションの重要度が増したので、なにかしらサスペンションを意図して動作させているとは思うのですが、アッパーアームの斜め設置の効果は正直、判りません。
もしかしたら、空力的な都合でこうなっている可能性も多いにあります。

おわりに

サスペンションは構造から特性、挙動まで話すとマジで「学問」になってしまうので、難しいことは抜いて見た目ので判りやすいAアームに的を絞って記事にしてみました。
書いてて気づいたのがサスペンションロッドの太さ、めちゃくちゃ太くなってます。いや~、毎年みてると太さなんてあんまり変わらんと思ってたんですが、年を隔てると全然違いますね。
サスペンション周りは色んな思想や流行があるのでネタが多いです。それらは別の記事で掘り下げてみたいと思います。

あと、毎度なんですが、記事が長くてすいません。
ほなね~!


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