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F1小噺【マシンの顔】

この記事では私が好きな「F1の小さな事柄」についてアレコレ語ります。
今回は特徴的なサイドポンツーンの形、特に正面から見た「顔」についてお話します。個性的なイケメン(!?)をご堪能ください。


サイドポンツーン is 何?

サイドポッドとも呼ばれます。F1のラジエターなどを格納している部分で、マシンの胴体とでも言いましょうか。昔は単なるラジエターのカバー的な役割でしたが、現在では気流を操作するための重要な空力パーツです。

2024年 SF-24 両サイドのでっぱりがサイドポンツーン

私が「顔」と言っているのはこの正面のアングル、主にフロントウィングとサイドポッドの前面で構成されます。

2002年 EJ12 この頃は完全に四角の箱、吸気口でっかい。

2006年 空力的イケメン現る

2000年代後半の空力戦国時代、マシンの風貌が無骨な角刈り九州男児から、オシャレな男性モデルになっていきます。

2006年 MP4-21 イケメンに見えますよね?ね?

サイドポンツーンの下部がエグれ始め、これまでの直線的な四角形から曲線をメインとした形状に変化し始めました。
このエグれた形状は現代F1のトレンドになります。

2011年 美しさなど不要!合理性を剥き出しに!

逆三角形(▽)のサイドポンツーンがトレンドの中、目を疑うような造形のマシンが登場しました。

2011年 MP4-26 もしかして怒ってる?(╬◣д◢)

マシンの外側はタイヤがあるので乱気中が発生します。冷却用の気流は別に乱気流でも構いません、という事で吸気口が外側に。
そうすると、マシン中央の綺麗な気流を自由に使えるようになるので、これを本命の空力に割り当てよう!という理論でこのマシンはデザインされました。
年間6勝を挙げランキング2位を獲得しましたが、このデザインは流行りませんでした。(翌年からオーソドックスな形状に戻ります)

過激なデザインですが、中央部の気流を外側のボディワークで保護する思想は、実は現在のスライダー式サイドポンツーンと同じなんですね。
時代を先取りしすぎました。

2017年 個性的で革命的設計

この頃から、冷却用の吸気口のサイズが小さくなり、サイドポンツーンのデザインの自由度が高くなります。そして、再びド変態マシンが登場します。

2017年 SF70H う~ん、タレ目の変顔!( ◜௰◝ )

この独特な吸気口の位置と形状は、正面から見てサスペンションアームが無い場所(つまり、綺麗な空気が流れる場所)に配置されており、上のMP4-26とは真反対の思想ですね。
このマシン、実に革命的な構造になっているんですよ。
F1マシンはドライバーの安全保護のためにモノコック(運転席)の真横に衝撃吸収構造(カーボン製のラップの芯みたいなモノで、長さと位置が厳密に決めれらている)を取り付けないといけません。
下図を見てみましょう。水色の線が、既存のサイドポッドの開始線です。衝撃吸収構造を包み込むようにデザインせざる負えないので、どうしてもサイドポンツーンが前方にせり出し、横幅も必要です。

サイドポッドのスリム化に成功

対して今回のSF70Hはサイドポッドの開始位置(黄色線)を大きく後退させ、衝撃吸収構造をサイドポッドの外側に配置しました。そしてフィンで囲むことによってボディーワークに格納するというレギュレーションもクリア。そして小さくていい吸気口を生かす、非常にクレバーです!
このデザインは翌年からの流行りとなります。

2020年 細マッチョなマシン、現る

「吸気口が小さくても良い」ということは裏を返せば「冷却要求が低い」ということです。このマシンのカッコよさは、顔ではありません。

2020年 W11 極限まで絞り込まれたボディ、抱かれたい

このサイドポンツーンの小ささは異常なんです、ハイブリッドと合わせて1000馬力出すモンスターエンジンがこの下に格納されてるんですよ?これは機能美ではなく肉体美といっても差し支えないでしょう!

2022年 サイドポンツーン、消える

特大なレギュレーションの変更が施行され、どのチームも個性的な形のマシンをリリースする中、プレシーズンテストの2回目にメルセデスが目を疑うマシンを突然持ち込みました。

2022年 W13 サイドポンツーンが溶けた…( ゚Д゚)

メルセデスがサイドポンツーンをゴリゴリに絞り込むチームなのは知ってましたが、さらに進化させました。この造形は「ゼロポッド」と呼ばれますが、他チームから違反を疑われます、そう、衝撃吸収構造はどうなっとんだ、ボディワークに梱包しとんかと。

横から見るとマジでサイドポッド無いですね

衝撃吸収構造は、自称ミラーステー(青矢印のミラーが乗っかってる幅広の出っ張り)に梱包されています。ミラーステーってボディワークに含まれるの?というかコレどう見てもウィングじゃね?という点が議論されます。レギュレーション上はOKで、メルセデスはゼロポッドでシーズンを挑むことになったんですが、1年通じてこのマシンにめちゃくちゃ苦戦します。(この形状は流行しませんでした)

2024年 吸気口が消えた…!?

今年(2024年)のニューマシンの発表でレッドブルのマシンが沸かせます。
サイドポッドに吸気口が見当たらないんです

2024年 RB20 吸気口どこよ('A` )

実はここから冷却用に吸気しています。
レッドブルはサイドポンツーンの役割を空力9 : 冷却1にしてしまいました

まさかの2分割、本当に冷却できんの?

そしてアップデートでモノコック回りに続々と吸気口が投入されます。一体なにが始まるんだ?サイドポンツーンの吸気口をなくすつもりなのか…?

場所的にメインラジエターの冷却用ではない

おわりに

いかがだったでしょうか、サイドポンツーンの魅力が少しは伝わったでしょうか?また長い記事になってしまってスイマセン。(いや、自覚はあるんですよ)
F1では定期的にド変態なサイドポンツーンの形状のマシンが出てくるのが魅力ですね。そして技術革新で吸気口の大きさが20年前と比べて1/4ぐらいになっているのも驚きです。
もしかしたら近い将来、サイドポンツーンから本当に吸気口が消えるかも知れませんね!


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