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さかしまとSAKASHIMA~憧れの隠遁生活

「さかしまー美と退廃の人工楽園(J.K.ユイスマンス・澁澤龍彦譯」を入手。

このカバー絵だけでそそられる。

きっかけは今井さん(BUCK-TICK・ギタリスト)のブログ「寿記」。
THE MORTAL(2015年・あっちゃんソロ活動)について書かれた記事で使われていた写真がこの「さかしま」だった。ちなみに著書名はSNS特定班の方々のおかげで判明。

当時は古書にべらぼうな金額がついていて諦めたのだが、お手頃価格のものをみつけてようやく購入。文庫版ならすぐ買えるのに、今井さんと同じものを!としつこく探し7年もかけて手に入れるこの執念。我ながらどうかしてると思う。

デカダンスの聖書と呼ばれている「さかしま」。
主人公は病弱な少年時代を過ごし、両親を早くに失った貴族の末裔デ・ゼッサント。
神学校を卒業後、放蕩の限りを尽くした彼はそのすべてに嫌気がさし、俗世間との関りを拒否して隠遁。郊外の一軒家に引き篭もって趣味に没頭し、理想の人工楽園を創り上げてゆくが…というのが主なあらすじ。
とはいえ、物語的な起承転結があるというより趣味についての蘊蓄うんちくや描写が延々と(しかし美しい文章で)綴られている。

煩わしい世間から逃れ、こだわりぬいた空間でひとり書物に囲まれ、お気に入りの絵画を眺め、興味のあることにひたすら埋没する生活。
なんて贅沢。なんて羨ましい。オタクの極み、オタクの憧れだ。できるものならやってみたい。

それにしても主人公の美醜へのこだわりと、文学・言語・絵画・色・香り・・・あらゆる分野の知識がすごすぎて、もはや何を言っているのかわからない。巻末の膨大な注釈を読んだところで、わからないことが増える一方なのだ。
それでも読んでしまうのはきっと、こだわりを突き詰める主人公の偏執的なまでの熱量に巻き込まれてしまうから。そして簡潔でありながら美しい不思議な吸引力を持つ文章に引き込まれてしまうから。そして、現実には叶うことのない憧れの生活がそこに描かれているから。

興味深かったのは「口中オルガン」と称された装置。
酒の味覚を楽器になぞらえ、一滴ずつ味わうことで口の中で音楽を奏でることができるというもの。「香りのオルガン」のお酒バージョンだ。
私は聴覚(音・言葉)を嗅覚(香)や視覚(色)に変換して表現するのが大好きなのでこれには非常にわくわくした。家にあったらずーっとあれこれ試して酔っぱらって過ごしそう。

いまここ。

主人公が好んだ絵画がモローの「ヘロデ王の前で踊るサロメ」と「出現」(澁澤訳では「まぼろし」)ということでモロー展の図録を引っ張り出して文中の描写と絵を見比べたり、SCHAFTの「SAKASHIMA」を聴き始めたり。あちこち寄り道して、遅々として進まないのがBUCK-TICK読書の特徴。


さかしま 特別な夜 お前の特別な夜
完全な人工楽園 夢幻の そうだ 特別な夜

「SAKASHIMA」作詞・作曲:Imai Hisashi

SCHAFTの「SAKASHIMA」はユイスマンスの「さかしま」から生まれたんだねぇ。BUCK-TICKだと一言一句読み込むように聴くくせに、SCHAFTは音に圧倒されて歌詞ちゃんと読んでなくて、今更そんなことを思ったりしている。

ブログではTHE MORTALのことを書いていたけど、今井さん実はあの時この曲を作っていたのかも、なんて想像するのも楽しい。

BUCK-TICKを知ってから少しずつ世界が広がっている。
興味のあるものが繋がって少しずつ世界が深くなっていく。
ひとつのことにのめり込むって世界が狭くなるようだけど、実は掘り下げるほどに広くなるんだなぁ、と思ったりする。

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