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【No.4】カナダで大ピンチを切り抜ける~後編

英語力より雑談力と知る

気持ちは少しずつ前向きになっていったが、やはり、交流会のたびにびくびくするのは正直なところだった。

あるとき、カナダ大使館に勤める日本人メンバーのUさんに「私の隣に座った人は不運だよね、会話がもりあがらなくて…」ともらしたらUさんは「私の隣の人だって不運だわよ。だって共通の話題もないし、私なんかと話すよりエージェントやメディアの人と話したいに違いないもの」と。

え?と驚いた。英語ぺらぺらのUさんがそんなことを思っているとは。そっか、だったら私も戦えるかも(いや、戦うことではないのだが)。

私は、もともとは無口で人と話すのが大の苦手だったが、ライターという職業がら、2000人は下らない人に取材をしてきた。そのおかげか、いつのまにか無口どころか誰とでもすぐに打ち解けて話せるようになっていたのだ(おばちゃん力がついただけかもしれないが)。

英語ができないのは弱みだが、私にはだれとでも話せるという強みがある。そもそも取材の上手な人は、聞き役に徹して、相づちは打っても自分からはあまりしゃべらないものだ。そのほうが取材は盛り上がる。その伝でいくなら、英語力はなくても、聞き上手、相づち上手であれば、会話は盛り上がるはずなのだ。

また一つ、光が見えた気がした。

最終日、思い切って挙手してみた

カナダ滞在の最終日、最後に訪れた学校で、一通りの説明を受けたあと「何か質問はありませんか?」とホスト役の校長先生が聞く。最初の頃こそ、さっと手が挙がり活発な質問があったが、メンバーたちも最終日で疲れていたのだろう、誰一人、手を挙げない。

「何もないの?」

その時の、校長先生の表情があまりにがっかりしていたので、えいや!と手を挙げてみた。これまでほとんど言葉を発せずうなずくだけで視察をしのいできた私、このままで帰ってなるものか、と思ったのだ。

私の語学力だから大したことは聞けない。「生徒一人ひとりの個性を大切にしていること、将来の職業につながる実践的な教育が行われていることに大変感動しました。素晴らしい環境だけど、これだけの設備にかかる予算はどのように確保しているのでしょう」といった、まあありきたりなことを聞いた。

(ちなみに、「質問は?」と聞いても何も返事がないと、欧米の人は表情が豊かなだけに、本当に残念そうな顔をする。だから、何か説明を聞くときは、あとでこれを質問しようと、考えながら聞くのがおススメ)

校長先生は喜んで答えてくれたが、ネイティブの英語のスピードについていけないし、知らない単語ばかりで半分も理解できなかった。でも、私は満足だった。とにかくがんばって発言した。これだけでも小さな成功体験だ。

英語の勉強が楽しいのは、「通じた!」「英語で言えた!」というささいな成功体験が、日々あるからだろう。それを積み上げていくことで、また一歩野望に近づいた!と自信になる。それが明日のモチベーションになる。

実は私も英語しゃべれません!メキシコ人の告白

このカナダツアーでは、メキシコからきた、マリカルメンとリタという私よりちょっと上の世代の女性と仲良くなった。

最後の日、「実は、英語が苦手なので、とても不安だったけど、仲良くしてもらって嬉しかった」と打ち明けたら、「何言ってるの、私たちだって同じよ! でも、何か一つでも知っている単語が聞こえたら、あとは想像力で会話をつないでいたのよ!」と言うではないか。

ラテン系のこの2人、いつも明るくて、大きな声でよくしゃべっていたが、実は彼女らも英語には自信がなかったのだ。

2人は小さな留学あっせん会社を共同経営しているという。

「実は数年前、ガンになってしばらく落ち込んでいたの。でも、だからこそ人生を楽しまなければ、と思うようになったのよ」と、リタ。リタの自慢の息子の写真も見せてもらった。またどこかで会おうと手を振って別れたが、もう会うこともないだろう。でも、地球の反対側の人と、下手くそでも英語という共通言語のおかげで、心を通じ合うことができた。この経験は一生忘れることはないだろう。(つづく)

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