大好きだったあの人⑧
アレは、彼と付き合い始めて2ヶ月が過ぎた頃だったと思う。
アタシの出勤日の度に来店するお客様が、アタシと2人きりでアフターに行きたいと言い始めた。
ママはアタシのアフターには必ず自分か、レギュラーチーフをしていたアタシの高校時代からの友達を同行させていた。
「惚れさせ」コンセプトのアタシを、お客様と2人きりにさせるのは、ママとしても心配だったのだと思う。
でもそのお客様はあまりにもしつこ過ぎた。
もう何週間も週3で来店してくれるお客様を無下にするのは、ママとしても難しいコトだったはず。
とうとう根負けしたママがオッケーを出す。
ママが行けという外営業をアタシが断るコトはできない。
正直「めんどくさいナぁ」とは思った。
しつこく交際を迫ってくるかもしれないとも思った。
だけど、今までプライベートでもそういうしつこいオトコを躱せなかったコトなかったから、なんとかなるかって思ってた。
お客様はカクテルバーへ連れて行ってくれた。
アタシはカクテルに詳しくない。
自分の飲み物をお客様に任せるコトにした。
アタシは出されたカクテルがなんなのか知らないままに口を付けた。
実はそのカクテルはかなりアルコール度数の高いお酒だった。
それを疑いもせずがぶ飲みした。早く帰りたかったから。
アタシはそのまま泥酔酩酊し、自我を失う。
そして事件は起こる。
実はアタシはこの夜のコトを全部は覚えていない。
ただはっきりと覚えているコトは、そのお客様とホテルにいたコトと、イヤだと言ったのに無理矢理そういうコトをされてしまったコト。
覚えていたくない記憶ほど鮮明に覚えているのはなんでだろう…
だって、この前後の事は何も覚えてないのに。
アタシはベッドの上で、あの瞬間だけ意識を取り戻す。
ケド、その後すぐに意識を手放すのに。
カクテルバーのカウンターに座っていたはずのアタシは、なぜかホテルのベッドの上にいた。
そして目の前で自分の服を脱ぐお客様。
大酔っ払いのせいでまったく体の自由の効かないアタシの服も脱がせてる。
泣いてイヤだヤメテって言ったのに、聞いてもらえなかった。
そんなおぞましいコトだけを覚えてるだなんて…
すべてのコトを覚えてなければ、無かったコトにできたのになぁ…
いや、できただろうか…
それさえわからんケドも。
どうやって家に帰ったかも覚えてない。
はっきりと目が覚めた時は伯母の家の布団の上で、酷い頭痛と吐き気に襲われていた。
コレは普通の二日酔いなどではない、そう思ったアタシは病院に駆け込んだ。
受診の結果は「急性アルコール中毒」だった。
お医者様は
「この状態で意識あるのが信じられない」
と言ってた。
体の辛さが落ち着いた後は、後悔の嵐。
どうしてお客様に自分の飲み物を任せたりしたんだろう
どうして自分の事を好きだ好きだと言ってる人の目の前で泥酔酩酊してしまうなんてコトしちゃったんだろう
涙が溢れ出た。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
彼に申し訳ない
その気持ちでいっぱいになって、涙は止まらなかった。
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