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ライブ備忘録:ずっと真夜中でいいのに。 やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編) @東京ガーデンシアター 2020.11.28

 2020年の秋に観た「ずっと真夜中でいいのに。」のライブに衝撃を受けた。
 「ずっと真夜中でいいのに。」は音源を聴いたりYouTubeのMVを観たりしていたが、実際に生でライブを観たことはなかった。
 なので今回のライブをとても楽しみにしていたし、さらにチケットが発券されて、座席が前から2列目(しかもど真ん中。)と知ったときは大変驚いた。こんなに前でライブを観たことはないし、何より素顔を明かしていない「ずっと真夜中でいいのに。」のライブなので、やはり顔が拝めることを期待してしまう。

 当日のライブは座席を通常キャパの約50%以内とし、マスク着用、声援の禁止などの制約があった。これはコロナ禍においてしょうがないことであると思ったし、声援禁止についてもコール&レスポンスなどをするイメージもなかったので大して影響はないのだろうと開演前は思っていた。

 会場の中に入るとまず感じたのは「暗さ」であった。通常、ライブが始まる前は座席までの順路をわかりやすくするため、会場内の照明を明るくすることがほとんどだった。
 しかし、この会場は文字通り暗かった。もちろん真っ暗というわけではないが、薄っすらと照明がある程度である。
 座席にたどり着きステージを見ると巨大なセットがあった。
 客席から向かって左には燻製工場(?)、正面には扉と建物、右には「ZUTOMAYO MART」と書かれたコンビニっぽい看板。
 うん、何だろうこれ。どういう世界観?燻製工場は「炙りと燻製編」とサブタイトルにあるくらいだからわかるけど(それにしてもストレート。)、コンビニってどういうこと?とこのときはなっていた。

 時間になり暗転。おどろおどろしい効果音が流れるなか現れたのは、







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from:二家本亮介 (@chan_nika116) 2021年1月31日 21:34


ヤンキーだった。


 バイクか自転車に乗って出てきたのはまごうことなきヤンキーだった。
 しかもメイクがどう考えても「紅」とか出している頃の「X JAPAN」なのである。
 この方々はサポートバンドメンバーなのだが、サポートであるとかを関係なく世界観にどっぷり浸からせる。演出のこだわりが垣間見えた。
 それぞれが自分のポジションにスタンバイしていくなかで、センターの座にだれもつかなかったことから、この中にACAね本人はまだいないことがわかった。
 バンドメンバーのセットが完了しさあ1曲目は何だと身構えたところで鳴らされたのは、インストナンバーだった。
 しかもまたもやバリバリ「紅」とかリリースしている頃の「X JAPAN」っぽいハードロックサウンドである。ピアノの旋律も、YOSHIKIさんが憑依した、と言われても信じてしまうほど美しい旋律を奏でている。
 ヤンキーが燻製工場やコンビニのドアの前でバリバリのセッションをしている。とてもシュールな構図なのだが、サウンドがガチすぎるため、すんなり受け入れてしまう自分がいた。
 セッションが終わり、真ん中の建物のドアが光った。そこでかかった音は、

ファ〇マの入店音(っぽい音)だった。

 この音とともにドアからACAねが登場。真の1曲目「JK BOMBER」(インポッシブルじゃない。)がスタート。終わりのピアノのフェードアウトまで再現するなど、演奏のこだわりが随所で光っていた。
 続けて「こんなこと騒動」と「勘冴えて悔しいわ」をショートバージョンのメドレーで披露。ACAねもギターを弾く「低血ボルト」までほぼ曲間なくテンポ良く楽曲を披露していく。
 ACAねには照明が当たらないよう精密にコントロールされており、2列目でも素顔をはっきりと拝むことはできなかった。(そういう行動自体が野暮なのだろう。)


 その後、メンバーがもう1人出てくる。ステージ前方にはブラウン管テレビが並んでいたのだが、なんとそれを叩き出した。
 2021年1月30日に放送された「SONGS」でも紹介されていたが、テレビ画面を叩くことによって音が出る仕組みになっており、文字通り初めて見る楽器だった。
 他にもこの後の展開でオープンリール奏者2名が登場したり、「マリンブルーの庭園」ではACAね本人が扇風機型の楽器を演奏したりするなど(こちらも「SONGS」で解説された。)他のアーティストのライブでは見たこともない楽器のパフォーマンスが次々と行われた。驚いたことはそれらの演奏がまったく不自然ではなく、ビジュアル面でもサウンド面でも自然に存在していた点である。

 ユニークな点は他にもたくさんあった。
 中盤の「雲丹と栗」では真ん中の建物の2階に上がり、グッズの「しゃもじ」を鳴らしたり、ティンパニのような打楽器を演奏したりしながらゆったりと歌っているのが印象的だった。(他のヤンキーバンドメンバーも何人かしゃもじを演奏していた。)
 また、ダンスナンバー「サターン」では、サビではACAねやバンドメンバーが右左とステップを踏むなどしていたが、後奏ではなんとリハ音源をカラオケに、バンドメンバーが次々と踊りだしていた。(2021年1月31日に配信されたライブ映像では「【速報】メンバーみんな踊りたいので一旦演奏を止めてリハ音源を流しています」の字幕付きでこの模様が放送された。)
 緊張感のある演出が多いと思っていたが、このような緩く自由度の高い演出がところどころで行われていたことは意外だったし、自分がいかにこのグループに対して先入観を持っていたかを知るきっかけにもなった。

 話は少し戻るが、5曲目「マイノリティ脈絡」の後に最初のMCがあった。「SONGS」でも印象的だった、か細く丁寧な声と口調で、ACAねは来てくれたお客さんへの感謝を告げた。
 また、今回のライブのコンセプトが

「砂漠のコンビニに通う過酷な田舎のヤンキー」

 である、と説明した。それだけ聞くと「?」だが、その後の説明で、昔はコンビニに屯するヤンキーが怖かったが、今ではヤンキーたちがその時を一生懸命生きていた(自転車やバイクの改造なども含めて。)ことが理解できるようになったことから、このコンセプトが浮かんだそうだ。

 そしてその後も「眩しいDNAだけ」でACAねが建物の2階に再び上がりでんじろう先生が使いそうな空気砲を発射する、などの一風変わった演出もあったが、ライブを通して一番圧巻だったのは間違いなくACAねの「歌」だった。
 1曲の中で目まぐるしい転調やテンポチェンジが行われることがほとんどで、キーも上下も並大抵のものでないことは素人が聴いてもわかる。なのにまったくズレない。よく口からCD音源という例えが歌の上手い人に対して使われているのを聞くが、ACAねの歌はまさにそれだった。
 しかし、ロボットのような精密さだったというわけではなく、しっかりとそのときの感情を正直に歌に込め、それがある種の感動を呼んでいるように思われた。


 現時点での最大のヒット曲「秒針を噛む」では、ラスサビ前の「このまま 奪って 隠して 忘れない」の繰り返し部分は本来シンガロングが起こっていたのだろうが、今回は声を出せないということで手拍子で代用。場内約4,000人がメロディに合わせて精一杯手拍子を送った。

 さらにACAねの指揮に合わせてキーボード担当が「ドン・キホーテ」(驚安の殿堂のアレ。)のメロディを鍵盤ハーモニカで吹く、というアレンジで始まった「正義」ではそれまで基本中央か建物上部でのみ歌っていたACAねがステージ端まで歌い、踊りながら移動する、という場面もあった。YouTubeのMVではアニメーションなので、これはまさにライブでしか観れない姿だし、ここまでアグレッシヴなパフォーマンスもするのか、という驚きもあった。

 本編最後の「脳裏上のクラッカー」のピアノイントロを弾き出したときにACAねが一度演奏を止めさせた。急遽なのかどうかはわからないが(ずとまよの演出力が高すぎるせいでミスも演出のうちなのではと思わされてしまう。)、ACAねによるMCが入った。
 ここでもまた、ACAねは大変な状況の中会場に来てくれたファンに向けて感謝の言葉を話した。
 ライブに参加する側も様々な不安を背負わなければならない時代となったが、それは演者側も同様であったのだ。ライブを開催することによって観客をある意味危険に巻き込むことになる、中止にすれば損害が発生する、というどのような選択をしてもネガティヴな事象がチラついてしまう。「ずっと真夜中でいいのに。」の中心人物として、この1年間ACAねもひょっとしたら様々な難しい想いを抱えていたのかもしれない。
 だからこそ初めて生で観るACAねは、自分の目にはとてもアクティヴで生々しく感情的な人物に見えた。
 「脳裏上のクラッカー」でのACAねの歌唱も、序盤とは身体の動きも格段に大きいものになっており、よりライブを通じて高まった感情がそのまま表現に表れているように見えた。

 本編で代表曲はあらかた披露されたため、アンコールがより楽しみになっていた。そして再度登場したバンドが最初に披露したのは、映画「さんかく窓の外側は夜」の主題歌としても話題の新曲「暗く黒く」。
 1番と2番が同じ曲とは思えないほどの展開を見せ、最後はよりカオスになっていく曲だが、凄腕バンドメンバーによるセッションが映え、ACAねは再度建物に上り、でんじろう噴射機(勝手に命名。)で空気砲を発射していた。楽しそう。

 最後は当時の最新ミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』のリード曲でもあった「お勉強しといてよ」(この曲の歌詞に「ヤンキー」というワードがあった。)。大会場がとても似合うポップに振り切った楽曲で大団円となった。

 全楽曲が終了し、バンドメンバーは再度改造自転車やバイクに乗りステージ端へ去り、ACAねは本編最初に登場したコンビニの扉を通ってステージを後にした。
 
 演出のこだわりが凄まじく、衝撃を受けたのはたしかである。だがこれらはすべて圧倒的な楽曲クオリティとライブでのパフォーマンス能力が担保されているからこそだと思う。
 YouTubeのMVではパフォーマンス自体は体験できないからこそ、生でのパフォーマンスはMVとはまた違う衝撃や感動を与えてくれた(現にACAね本人についてここまでMCをする人だと思っていなかった。)。
 2021年2月10日に発売された新アルバム『ぐされ』は、先行リリース曲だけですでに6曲もMVが公開されており、そのすべてが500万回以上再生されているなど、とても期待感を煽る内容になっている。
 ライブ回数は多いとは言えないアーティストであるため、次にいつライブを観れるかはまったくわからないが、あのライブを観終わったすぐ後に、「またライブを観たい」とはっきりと思えた。(その後1月のKT Zepp Yokohama 公演のチケットも確保していたが、中止となってしまった。)
 
 唯一このライブで疑問に思ったことと言えば、「燻製」とはどのような意味だったのだろう?

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from:ACAね (ずっと真夜中でいいのに。) (@zutomayo) 2021年1月31日 20:50


セットリスト

1.JK BOMBER
2.こんなこと騒動
3.勘冴えて悔しいわ
4.低血ボルト
5.マイノリティ脈絡
6.勘ぐれい
7.マリンブルーの庭園
8.雲丹と栗
9.Ham
10.サターン
11.MILABO
12.Dear Mr 「F」
13.眩しいDNAだけ
14.秒針を噛む
15.正義
16.脳裏上のクラッカー

17.暗く黒く
18.お勉強しといてよ

内訳

・2nd Album『ぐされ』5曲。
・1st Album『潜潜話』7曲。
・3rd Mini Album『朗らかな皮膚とて不服』3曲。
・2nd Mini Album『今は今で誓いは笑みで』1曲。
・1st Mini Album『正しい偽りからの起床』2曲。

最後に

 2021年2月10日発売の新アルバム『ぐされ』を聴いた。
 既発曲からも感じていたが、前作『潜潜話』よりも王道J-POPサウンドに寄り、さらにとてもファンキーで踊れる作品だった。
 ベースの音がとてもズシンと来る。誰が弾いているのだろう。クレジットを読みたい。
 わかりやすい高速ナンバーが多いわけではないが、その分バンドのグルーヴ、ファンクやディスコなど様々な要素を詰め込んだダンスナンバーをたくさん楽しめる。
 
 ベースとACAねのフロウが唸りまくるM-6「機械油」で鳴っている和風ラーメン屋のBGMみたいな三味線の音がとても癖になっていたら「こってこてのバリ硬men」なんて歌詞が出てきて笑ってしまった。ラーメン食べたい。

ぐされ


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