ライブ備忘録:Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸 @横浜アリーナ 2018.11.29
2021年5月10日。Mr.Childrenメジャーデビュー29周年記念日。
ある1本の動画がYouTubeにアップされた。
最初は割と本気で違法アップロードを疑った。
だがガチな公式だった。
「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸 In TAIPEI」。
Mr.Children史上初の海外ワンマン公演のフル映像である。
まず有権者に訴えたいのはこの映像作品が非売品であるということである。
2019年6月26日に発売された「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」のライブ映像作品に、特典映像としてダイジェストが収録されているが、台北公演のフル尺は今まで一切発表されていなかった。
というわけで途端に気分が『重力と呼吸』モードになったため、今回は「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」の国内公演の模様について書く。
2018年秋冬、Mr.Childrenは同年10月3日にリリースした19th Album『重力と呼吸』を携えたアリーナツアーを行った。
このときはオリジナルアルバム自体の発売が約3年4か月ぶりとMr.Children史上最も間隔が空いており、ファン待望のアルバムツアー開催となった。
事前にSUNNY、そして『重力と呼吸』収録曲の大半にキーボディストとして参加した世武裕子の2名がサポートキーボードとして参加することが発表されるなど、今までとは違った体制でのライブにも注目が集まった。
チケットを7回ほど応募しなんとかチケットを手に入れ、2018年11月29日、横浜アリーナに向かった。
スタンド席の最後尾という座席だったが、そんなことはどうでもいいくらい、その場にいられることが幸運なことだと思っていた。
始まったぞ横浜!!!
場内が暗転し、「Your Song」をリミックスしたような音源がSEとして流れる。ということは1曲目はアルバムの曲順通り「Your Song」なのだろうか。
前の方の観客の反応からメンバーが登場していることは分かったが、どのように曲を始めるのだろうか。
すると、SEが終わったとほぼ同時にステージが点灯。勢いよく「SINGLES」の演奏が始まった。
あまりの破壊力に面食らった。場内は当然大歓声。センターの桜井さん、遠くからでもわかるくらい観客を煽っていた。
楽曲の中で「静」と「動」の両方を繊細に表現するバンドの演奏、そして桜井さんの唯一無二の歌声。やはり別格だった。
大興奮のまま1曲目が終わり、次は何だろうと考えたら、なんとベースの中川さんにスポットが。弾きだしたのは2005年発売の12th Album『I ♥ U』収録のハードナンバー「Monster」のイントロである。
ステージ後ろの巨大スクリーンが動き、斜めに固定される。
ラスサビに入る前の桜井さんの囁くようなセクシーな声、そしてラスサビでの絶叫、まだ2曲目なのに力という力をすべて絞り出してしまうかのようなパフォーマンスだった。
そして映画「君の膵臓をたべたい」の主題歌としても認知されている「himawari」。
2017年の「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」では新曲として披露されていたが、今回はアルバムのリードシングルとして完全にファンにも定着したからか、田原さんのイントロのアルペジオで歓声があがった(3曲目での披露が意外だったから、というのもあるかもしれない)。
ギターソロの最中の桜井さんのステップ、ツアーをずっと周っていたからかキレキレだった。
曲が終わり、シンセサイザーの音が鳴るなかで桜井さんが「始まったぞ横浜!!!」と叫んだ。そのまま18th Album『REFLECTION』収録の名曲「幻聴」のイントロへ。バンドの音が入った瞬間、桜井さんはセンターステージに向けて一気に走った。
やっと一息つけるねって思ったのも束の間
また僕は走り出す
「幻聴」
カロリーの高そうな3曲を歌い終わってからのこの歌詞はあまりにもライブの流れにマッチしすぎていた。
近年のMr.Childrenの楽曲でも屈指のスケール感を持つ「幻聴」。サビでは横浜アリーナ中の観客が手を振り、桜井さんの熱唱に応えた。
曲終わりは以前披露した際と同じく、観客とコール&レスポンスを行い、オープニングからの盛り上がりのピークをつくった。
あの曲も、あの曲も
「こんばんは、Mr.Childrenです!!!」
「幻聴」が終わり桜井さんのMCへ。
この日に会えた方々との出会いを祝って(意外と初めましてのファンが多く、桜井さんは「そういうの大歓迎です」と言っていた)披露されたのはいまや国民的名曲「HANABI」。
「もう一回 もう一回」やっと歌えた。会場中が歌う「もう一回 もう一回」すごい声の大きさだった。あらためてすごい曲。
そしてスタンド席からだったのでわかったが、今回のツアーはどうやらステージ床にも映像が投影されており、「HANABI」では光に満ち溢れたスペーシーな映像が流れていた。
「Mr.Childrenの骨格、JEN!!!」という桜井さんのコールに応えながらドラムを叩くJENさん。8分の6拍子のドラムに合わせて桜井さんが歌い出したのはなんと2000年発売の9th Album『Q』収録の「NOT FOUND」(意外にも2013年のツアー以来約5年ぶりの披露)。
そして何よりもファンが驚いた原キーでの披露。
「NOT FOUND」をライブで聴くこと自体が初だったのだが、まさか原キーで聴けるとは(長年キー下げで披露されてきた楽曲である)。
一気にロックモードに向かうと思ったらここで『REFLECTION』に収録されたバラード曲「忘れ得ぬ人」。アルバムツアーと言えど「Thanksgiving 25」のごとく様々な時代の楽曲が披露される。
メインステージからメンバー4人が移動し、なんとセンターステージではなく花道に4人それぞれがスタンバイする、という見たことないポジション編成になったところでMC。1995年秋にあった草野球の際中に浮かんだ、というエピソードが桜井さんの口から話された。
エピソードの時代から次の曲が90年代のメガヒット時代の楽曲であることは推測できたが、まさかその曲がミリオンヒットシングル「花 -Mémento-Mori-」とは。
1番はまるまる桜井さんの弾き語りで演奏される新アレンジ。ラスサビはさすがの大合唱。
ここまでも1曲ごとにまったくテンションの違う楽曲を披露しており、バンドの演奏のギアチェンジ具合は相当なものだったが、曲終わりで流れたSEから入ったのは「花 -Mémento-Mori-」とは真逆の皮肉めいた歌詞が特徴な『重力と呼吸』収録曲の「addiction」。
アウトロではサポートキーボード・世武裕子の超絶ピアノソロなど、激しい演奏に場内は盛り上がった。
さらにこの流れでダメ押しの「Dance Dance Dance」。今回は「Printing」とイントロの田原さんのギターを絡めた新アレンジのイントロ。
イントロからセンターステージで珍しくキメ顔でギターを弾く田原さん。今までここまで田原さんをフィーチャーした演出ってあっただろうか(2018年10月5日に放送された「アメトーーーーーーク!踊りたくないUSA&ミスチルのクセが凄い 金曜だけど3時間SP」内のコーナー「Mr.Children芸人」でも、川西賢志郎(和牛)より「もっとドヤ顔でギター弾いていい」とツッコまれていた)。
SUNNYさん、世武さんのキーボードソロ、中川さんのベースソロも最高。ツアー後半だからこそアレンジや演奏がしっかり固まっていたのもあり、2017年のアニバーサリーツアーからさらに強固になったバンドサウンドを魅せてくれた(「Printing」が独立したSEではなくギターの裏で鳴っていたのも今回オリジナルのアレンジである)。
そして桜井さんの歌、もはや絶好調のさらに上を行っていた。とにかく歌が強く響く。そしてまったく声が掠れない。
桜井さんが絶好調すぎる件
世武裕子によるピアノインストと映像で先ほどまでの空気がまたガラッと変化した。ここで披露されたのは2010年発売の16th Album『SENSE』からバラードナンバーの「ハル」。
2011年の「Mr.Children STADIUM TOUR 2011 SENSE -in the field-」でしか披露されていなかった楽曲。大きなカーテンが舞う演出も含め、より幻想的な空間を創り出した。
さらにシンセサイザーのSEに合わせて桜井さんが歌いだしたのは「and I love you」。そのときの桜井さんの歌声の強さに衝撃を受けた。思わず声をあげてしまったくらい。
さらにドラマ「14才の母」の主題歌としても有名な「しるし」。壮大なバラードナンバーが続く。
ラスサビの熱唱の凄みよ。やっぱり桜井さんが絶好調すぎる。『重力と呼吸』は年齢に抗う、フレッシュな音作りを目指した作品だが、それに伴ってか過去曲のパフォーマンスまでも若々しくなっている気がした。
ここまで13曲中10曲が過去曲というセットリストではあったが、どの曲も『重力と呼吸』の制作で手に入れた力強さがパフォーマンスに漲っており、充実した内容だった。
「ここからはみんなの番です!!!」と桜井さんが煽り始まったのは『重力と呼吸』の中でもトップクラスに若さを発している「海にて、心は裸になりたがる」。
ラスサビ前に桜井さんが中川さんにマイクを向けるやつ、これからも毎回やってほしい。
さらに「擬態」。ラスサビはもちろん大合唱。この曲MVもないけどいつでも盛り上がる。
とどめはJENさんのドラムから入る「Worlds end」。
2005年の楽曲だが、『重力と呼吸』で手に入れた肉体性が最も爆発したパフォーマンスだった。
最後の桜井さんの叫び。ここまで2時間近く歌い続けているとは思えないほどの強さ。観客もその叫びに全力でレスポンスを返した。
本編ラストは「僕らはティーンエイジャーじゃないことはわかっているけど、まだ伸びしろがあると信じています。」という言葉とともに歌われた「皮膚呼吸」。
アルバム『重力と呼吸』の核となる曲であり、これからへの決意表明にも捉えられるこの曲を情感たっぷりに演奏してくれた。
アンコール
暗転したままの空間に荘厳なSEが流れる。
その後「here comes my love」のピアノイントロが響きアンコールがスタート。
QueenのBrian Mayを意識したという桜井さんのギターソロ。生の迫力は段違いで、青のレスポールをクールに時に情熱的に弾く桜井さんの姿はとてもカッコよかった。
さらにまさかの15th Album『SUPERMARKET FANTASY』収録の「風と星とメビウスの輪」が歌われた。
後半にかけて一気に壮大になるこの曲。レーザーの光がより楽曲の激しさを増幅させた。
その後「この季節にぴったりな曲を」と桜井さんが話し歌われたのは『重力と呼吸』収録の「秋がくれた切符」。
桜井さんは座りながら歌唱。温かなサウンドと優しげな歌、黄色のライトがとてつもなく心地よかった。
そして最後。「みんなの歌です!」と高らかに宣言して歌われたのはもちろん『重力と呼吸』のリード曲である新アンセム「Your Song」。
冒頭のJENさんのカウントや曲間での叫びなどまさにライブのためにある曲。
ふとした瞬間に同じこと考えてたりして
また時には同じ歌を口ずさんでたりして
そんな偶然が今日の僕には何よりも大きな意味を持ってる
そう君じゃなきゃ
君じゃなきゃ
「Your Song」
自分にはこの歌詞からはMr.Childrenがライブを続ける、「歌」を届け続ける意味のようなものが読み取れるが、この日の演奏も「歌」への歓びや希望が音や演奏姿勢などのすべてから感じることができた。
デビューから26年が経ってもまだ止むことのない「歌」への渇望が、現役バリバリのモンスターバンドを動かし続けているのだろう。
まとめ
この日のライブ、桜井さんの歌、バンドの演奏、曲のカッコよさを最大限に増幅させる演出、などすべてが完璧すぎた。
前年の2017年に行われた「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」では1990年代から現代までの大ヒット曲をこれでもか、というくらいたくさん演奏し、集まったファンを沸かせた。
だがそのときの公演で披露した楽曲で今回のツアーでも演奏されたのは「himawari」「HANABI」「Dance Dance Dance」の3曲のみと、セットリストの大半が入れ替わり、さらに「innocent world」「Tomorrow never knows」「終わりなき旅」といった90年代の名曲の多くが披露されなかった(このツアーで披露された90年代の楽曲は「花 -Mémento-Mori-」「Dance Dance Dance」の2曲のみ)。
やはりMr.Childrenの歴代作品群の分厚さすごすぎる。サッカーのターンオーバー制みたいな布陣でも最高のゲームを作ってしまう。
そして『重力と呼吸』期のMr.Childrenは新曲に対する信頼がパフォーマンスやセットリストにも如実に表れていた。
オリジナルアルバムでツアーを周る際、セットリスト前半にアルバム曲を固め、後半に昔の盛り上がるヒット曲を演奏する、というパターンを採用するアーティストも多い。
だがMr.Childrenはそれを一切しない。新曲も過去のヒット曲もフラットに曲を並べる。
それをやったら過去の曲の方が盛り上がってしまうことも多い。でもMr.Childrenはそうならない。
「擬態」や「Worlds end」といったミスチル屈指の盛り上げ・シンガロング曲と並んだ「海にて、心は裸になりたがる」ではロックの本能剥き出しな桜井さんの歌に会場中が拳を上げたし、「花 -Mémento-Mori-」「Dance Dance Dance」といった90年代のエモーショナルなロックナンバーと並んだ「addiction」ではメンバーの激しい演奏に会場中が魅了された。
アルバムの曲に絶対の自信があったからこそ過去の名曲もガンガン演奏できる。このモードは強すぎる。
このツアーの後、Mr.Childrenは2019年4月~5月に『重力と呼吸』を引っ提げてドームツアー「Mr.Children Dome Tour 2019 "Against All GRAVITY"」を行うのだが、そちらのライブも記念碑的なものとなったので、続けて書く。
セットリスト
1.SINGLES
2.Monster
3.himawari
4.幻聴
5.HANABI
6.NOT FOUND
7.忘れ得ぬ人
8.花 -Mémento-Mori-
9.addiction
10.Dance Dance Dance
11.ハル
12.and I love you
13.しるし
14.海にて、心は裸になりたがる
15.擬態
16.Worlds end
17.皮膚呼吸
18.here comes my love
19.風と星とメビウスの輪
20.秋がくれた切符
21.Your Song
内訳
・19th Album『重力と呼吸』8曲。
・18th Album『REFLECTION』2曲。
・16th Album『SENSE』2曲。
・15th Album『SUPERMARKET FANTASY』2曲。
・13th Album『HOME』1曲。
・12th Album『I ♥ U』3曲。
・9th Album『Q』1曲。
・5th Album『深海』1曲。
・4th Album『Atomic Heart』1曲。
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