絵本「橋の上で」
読んでいる間、無声映画を観ているようでした。
あるいは、ネガフィルムを光にかざして、目を懲らすように絵本の世界をのぞき込んでいるような気がしました。
落ち込むことがあって、橋の上から、ただ黙って川を眺めている小学生の男の子と、通りすがりの浮浪者のおじさんとの静かな会話。
成長した男の子が、その時の会話を思い出している視点で描かれた物語です。
おじさんは、男の子にこう話しかけます。
そのみずうみとは、誰の心の中にもあるものだと言います。
そして、こうも言います。
両手で耳を塞ぐと、心の中のみずうみに流れ込む水の音が聞こえるというのです。
これはきっと、落ち込んでいた男の子に、自分の心の声を聞いてごらんと伝えたかったのではないかと思います。
成長した男の子は、眠れない夜に、ときどき耳をふさいで心を静めるようになっていました。
そのみずうみの水辺には、友達や大事な人たちなど、必ず、誰かがいるのです。
生きている人も、もう死んでいる人も。
その人たちの話し声に耳を傾けていると、いつの間にか眠ってしまうのです。
それまでモノクロだった絵本が、みずうみの水辺でたくさんの人たちが思い思いに寛いでいる絵だけは、カラーでした。それは、その時間だけはとても平和で幸せな気持ちでいられることを象徴していると感じました。
辛いときは、そっと耳を塞いで、自分を大切に思ってくれている人たちのことを思い出してみるのも、救いになるかも知れません。
長い夜が明けるまで、そうして自分を守ればいい。
みずうみは、いつだって自分の中にあるのですから。
きっと大丈夫。
後日追記-2023年9月13日
感想を書いた一連の絵本は、実はいづれも、第28回日本絵本賞の最終候補に残った作品ばかりでした。
そして、めでたく絵本賞に輝いた三作のうちの一冊が、まさにこの作品でした。
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