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忘れないために書いておく

「人生にはふたつのルールがあって、亡くなった人を不幸だと思ってはならない。生きてる人は幸せを目ざさなければならない。人はときどきさびしくなるけど人生を楽しめる。楽しんでいいに決まってる」

(TBSドラマ:大豆田とわ子と三人の元夫 第7話 より引用)

ある朝、寝癖を直すために前屈みになって頭だけシャワーを浴びていた。
その時、背中越しに「おじいちゃん死んじゃったって」と母の震えた声が聞こえた。
それは自分にとって、初めての身近な人の死の瞬間だった。

母方の祖父は、数万人に1人しか罹らない脳の病気だった。
車をよくぶつけるのを気にして、念の為病院に行って検査をした。
結果、脳の病気が判明した。
そして祖父は安心でもしたのか、病院の帰り道から歩けなくなった。 

その日から祖父は日に日に弱り、家族のことも認識できなくなった。
もちろん孫である僕のことも忘れてしまっていた。
まだ高校生だった僕はこの現実を受け止めきれず、祖父に会うのが嫌になった。

つい一年前まで一緒に海に遊びに行ったのに。
一緒に散歩に出かけていたのに。
思い出が濃いほどに、弱る祖父の姿は見ることができなかった。

結局、祖父は病気が判明して1年足らずでこの世を去った。
ある程度覚悟はしていたとはいえ、とても現実には思えなかった。

祖父がなくなって10年になる。
毎年、祖父の亡くなった季節が近づくと、当時を思い出す。
祖父は、幸せだっただろうか、なんて思うけどそんなことは分からない。
結局、今生きている人の心にしか投影されない感情だから。
自分の心に残る祖父は常にやさしく、楽しそうだった。
それで十分なのかもしれない。
自分が死ぬまで、思い出の中で祖父は生きているから。

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