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短編小説は、自分の描く物語を重ねて読むと、ひとつの世界につながっていく。

読書感想文を書くことになった夏。

本は好きでよく読むけれど、小説のように長い話を最後まで読み続けるのが苦痛に感じてしまうこともある。であれば、短編を読めば良いのでは?と考えるのだが、そういうわけでもない。

短編の場合、(自分にとっては)唐突にストーリーが打ち切られ、次の章に移ると別の主人公が登場することに、小さな失望を感じてしまう。「あぁ、これからってところなのに、どうしてここで話が終わるのかなぁ」と、思うことが度々ある。

そんな自分のところに、奥渋谷で「bar bossa」を営む林伸次さんの新著、23年10月4日に発売された短編小説『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』のゲラが届いた。読んでみた感想をnoteに書いてほしい、という告知を見て「これは面白そう」と林さんに連絡していたのだった。

猛暑が続いたお盆休みに帰省する際、荷物と一緒に分厚いゲラの束を持ち帰った。(ゲラと言えば紙の束。)新幹線のテーブルのうえで、実家のダイニングテーブルのうえで、あるいはソファに座って読み進めた。小説だけれど、最後まで読み続けることは苦痛では無かった。寧ろ、何とも言えない楽しさを感じるようになる。

なるのだが、やはり「唐突にストーリーが打ち切られる」感が所々で残ってしまう。結末の一文に、なんだか納得できないことがあるのだ。そのすぐ手前までは「ドキドキ、ハラハラ、ワクワク」という感情が、静かに沸き起こっていた。それが、いくつかの短編を読み終える時に、「しゅーん」と萎んでしまう。さて、どうしたものか。

こんな風に読んでみるのはどうだろう。

「結末の終わり方に納得できないわけじゃない。本当は、もっともっと、読み続けたかった。その世界を味わい続けたかった。それを裏切られたかのように感じて、納得いかない!と一人勝手にプンスカしていただけだ。だったら、全部の物語をひとつにつなげればいい。ひとつの世界に仕立て上げればいい。でも、それはどうやって??」

酒に酔いながらゲラをもう一度読み直していた時に、 1つのアイデアがひらめいた。自分で物語をつくり、林さんの小説に重ねつつ読んでみるのはどうだろう?たとえば、その物語の「主人公」が、林さんの小説で描かれる不思議な世界に迷い込み、ストーリーが重なって展開されていくというものだ。

自分の描く物語といっても、あくまで読んでみたい小説の、サポート的な存在に過ぎない。主人公の設定さえ決めてしまえば、あとは本来のストーリーが進んでいく。より客観的になれるように、自分が主人公ではなく、全くの別人を主人公にしてみるとよいだろう。さて、今回の物語では、こんな主人公を登場させてみようかな・・・。

(ここからは、林さんの小説のあらすじが軸となる物語に移ります。)

「さよならの国」へ向かう船の中で。

今、思い返してみれば、駅へ向かうバスに乗った時から、不思議なことが続いていた。チャージはたくさん残っているはずなのに、何度タッチしても残高不足でエラーになったり、空席があったので座ろうとしたら、すでに他の人が座っていて上に乗っかってしまったり。

紫の丘女子学園の制服を着て通学しているので、そこの生徒なのはバレバレだったと思う。変な噂がたたないことを願いつつ、その日は遅刻しそうだったので、人混みをかき分け、急いで改札口を通ろうとした。ICカード定期券を改札機にタッチして先に進むと、そこは、なぜだか船の中だった。

「え?なに、これ?」

後ろを振り返ると、港からどんどん離れていく光景が見えた。血の気が引く、というのはまさにこのことだと思う。それでも私は少しでも落ち着こうと、小さく深呼吸をして、少し前までの記憶を遡ってみた。

「バスを降りて、急いで改札口に向かって、えっと、それから・・・。」

落ち着こうとはしていたものの、呆然と立ち尽くしていたように見えたのだろう、ひとりの男から心配げに声をかけられた。

「なんだか辛そうだけど、大丈夫?君も "さよならの国" に行くんだよね。」

「さよならの国、ですか?」

「そう、さよならの国。一度会った人とは二度と会うことができない、そんなことが起こる国のことだよ。それを知らないで、この船に乗ったの?」

「いえ、私は・・・。」

答えようとしても、上手く言葉にできない。それはそうだ。今、ここで、いったい何が起きているのか、それ自体よく分っていないのだから。黙ったままだったので、男は話を続けた。

「さよならの国で船を降りてから右手に進むと、街の中に喫茶店がある。そこの初老のマスターが淹れるカフェオレが美味しいから、一度行ってみるといい。まぁ、一度きりしか行けないんだけどね。」

一度きりしか行けない喫茶店?さよならの国って、人だけじゃなくて、その人がいた場所にも二度と行けないの??であれば、その国はどんどん居場所が無くなっていくんじゃあ・・・、って、いやいや、そんなを考えてる場合じゃなくて、今、いったいどうなってるの?

「さよならの国からは、他の国に向かう船がいくつか出ているけれど、1年のうち半年間は、料理人にならないといけない国へ向かう船がある。その国では、大工さんも銀行員も、たとえ王様や王子様であっても、みんな料理人になって、色々な人に料理をふるまっているんだ。」

へぇ、誰もが料理人になるなんて、毎日美味しいものをいろんなところで食べられるんじゃない?いつか、その国で王子様のつくる料理を食べてみたいなぁ・・・って、だからぁ、今、いったいどうなってるの?てか、そもそも半年間は料理人って、経済はどう回ってるのよ??

話に出てきた国のことが理解できないので混乱していると、「ドカぁンっ!!」っと何かにぶつかった衝撃が走り、船は上下左右と大きく揺れはじめた。男はそれでも話を続ける。

「あぁ、この船は、これから湖の中に沈んでいくよ。でも安心するといい。湖の底には、誰もがなりたいものになれる国が広がっているのだから。でも、なりたいものになれるのは24時間まで。それを超えると命が途絶えてしまうからね・・・。」

あなたの世界はすべてにつながっている。

そう言って、男は奥の方へ消えてしまった。船はどんどん沈んでいるのが分かる。でも、どうして海水が流れ込んでこないんだろう・・・。って、あれ?ここって湖だったの?海じゃなくて?と余計なことを考えているうちに、船は湖の底の港に着いたようだ。え、息は?酸素は??と焦ったが、どうやら湖の中でも呼吸は出来るらしい。

船から降りようとすると、その先に、バーテンダー風の姿をした男が立っている。手には、檸檬のような黄色い果実が浸かる液体の入った、透明な瓶を持っていた。私はその時に気がついた。あぁ、この液体でつくったレモネードを飲むことになるんだ。これが私の未来のひとつだ・・・。

「それでレモネードって作ってますか?」

私は思い切って、バーテンダー風の男に聞いてみた。

「はい、色々な国を渡り歩いて、バーを開いているのですが、友人から送られてくる瀬戸内海の島で採れた檸檬で作ったシロップを使って、レモネードを出しています。どこの国でも人気メニューになって、好評ですよ。」

そう言って、男は立ち去った。どこでバーを開いているのかは分からないけれど、なぜだか30代後半になったら、その男が出してくれるレモネードを飲んでいるような気がした。私の世界は彼の世界とつながっている。会えるタイミングはいつかやってくる。今、なりたいものにならなくてもいい。

さまざまな国に違いはあれど、変わらぬひとつの世界だった。

どうやら湖と外の海はつながっているらしく、湖の底の港から出ている、他の国へと向かう船(つまり潜水艦?)に乗っては、小さくて不思議な国を色々と巡った。

片思いのままで終わっても「恋は一生に一度しかできない」国、自分が醜いと信じ込んでいる「王様が世界中の夜を集めている」国、いつ死ぬかという最期までの人生を「20歳の時にすべて決めなくてはならない」国、など。

それらの国々では、老若男女問わず、沢山の人との出会いがあった。私が住んでいた国でも、SNSでつながった他国の人との交流が多く、国によって個性はバラバラだった。世界は国境だけじゃなく、見えない線でも分かれていると感じていた。でも、実際にはひとつの世界であって、何も変わりないんだなって、今の私ならそう思う。

だって、「世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない」のだから。でしょ?



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